【第四十六話 嵯暁紫苑:日舞】

 犠牲者の名は「嵯暁(さぎょう)紫苑(しおん)」。20歳。身長164cm、B90(Fカップ)・W61・H92。嵯暁三姉妹の次女。姉にさくら、妹にスミレがいる。短大を卒業した現在はOLをしている。前髪と襟足は伸ばさず、横髪だけ長くし前に垂らしている。少し垂れ気味の目元と優しい雰囲気は男の保護欲をそそるらしく、仕事中に荷物を運んでいようものなら何人もの男が手助けを申し出てくる。
 極端に無口で、声を聞いたことがない人間のほうが多い。それでも勤め先を首にならないのは人徳かもしれない。
 嵯暁三姉妹は三人で同居している。母を幼い頃に亡くし、父は仕事で世界中を駆けずり回っている。そんな姉妹たちにとって、さくらは姉だけでなく母親の役割を兼ねていた。そんなさくらの様子がおかしいことに気づいた紫苑は、口を濁すさくらを問い詰め、<地下闘艶場>の存在を知った。まるでそのタイミングを計ったかのように、<地下闘艶場>から紫苑宛の招待状が届いた。
 大好きな姉が嬲られたリング。復讐の決意を固め、紫苑は自ら生贄となることを厭わなかった。


 花道に姿を現した紫苑に、観客からの卑猥な冗談が乱れ飛ぶ。ガウンを纏った紫苑はまるで表情を変えることもなく、静々と歩を進めた。

 リングに待っていたのは、レフェリーと脂肪の塊のような男。紫苑の視線に力が篭り、さくらを嬲った男達を見据えた。

「赤コーナー、グレッグ"ジャンク"カッパー!」
 コールされたグレッグは、緩い笑みを浮かべながら胸をぽりぽりと掻いている。
「青コーナー、『舞姫』、嵯暁紫苑!」
 名前をコールされた紫苑がガウンを脱ぐ。その下から現れた衣装は・・・黒と白で構成されたメイド服だった。その大きく開いた胸元には扇子が挟まれている。Fカップバストが作る谷間に挟まれた扇子に、変な想像をした観客も多いだろう。

 グレッグのボディチェックをさっさと終えたレフェリーが、紫苑の前に立つ。
「さ、紫苑選手、ボディチェックを受けて貰おうか」
 レフェリーの言葉に、紫苑はふるふると首を振る。
「嫌なのか? でも決まりだからな」
 レフェリーが紫苑のバストに手を伸ばすが、紫苑はすっと身をかわす。
「おいおい、逃げるなよ」
 レフェリーが再び伸ばした手から紫苑が逃れる。この光景が繰り返され、観客からは不満の声が上がり始める。グレッグも紫苑を捕まえるのを手伝おうとしたが、紫苑に触れることさえできない。
 ただ時間だけが過ぎていき、これ以上観客を待たせることはできなかった。レフェリーはボディチェックを諦め、ゴングを要請した。

<カーン!>

 リング上で、紫苑は胸の谷間から抜いた扇子を構える。紫苑は格闘技の経験がなく、唯一日舞を修業していた。<地下闘艶場>は扇子を武器扱いとはせず、紫苑は日舞の技術で闘うこととなった。
「ぐうぇへへ、そんなオモチャで、俺と闘うつもりかぁ?」
 突進するグレッグだったが、紫苑を捕らえたと思った両手は空を切った。そしてがら空きになった後頭部をぴしり、と扇子で打たれる。その一撃で、グレッグがよろめいた。打撃には強い筈のグレッグがよろめいたのを見て、観客席から驚きの声が上がる。

 舞は武に通じる。
 剣の柳生一族と能の金春流との交流が知られているように、舞の中には武術・格闘技に繋がる動きが備わっている。摺り足、一足飛びといった足さばきや間合い、拍子など、舞から武術に取り入れられたと見られるものは多い。
 だが、日舞でそのようなことが可能だろうか。

「いでぇ・・・なんだその扇子・・・」
 グレッグのあまりの痛がりようにレフェリーは一旦試合を止めて扇子をチェックするが、どう調べても普通の扇子だった。首を捻りながらも扇子を紫苑に返し、試合を再開させる。
「くそぉ、さっきのお返しさせてもらうぞぉ」
 グレッグは少しずつ距離を詰め、バストに手を伸ばすと見せかけ、いきなりスカートを捲る。
「んだぁっ!」
 グレッグにスカートを捲られ、紫苑が羞恥に頬を染める。薄いピンクの下着が見えた観客から、冷やかしの言葉が投げつけられる。
「うぇへへ、可愛いのを穿いてるなぁ」
 グレッグの軽口に、紫苑の目に不快感が浮かぶ。次の瞬間、紫苑の扇子が小気味よい音を立ててグレッグの頭頂部、右頬、左腰を打つ。
「あいででで!」
 打たれたところが赤く変わり、グレッグは声を上げながら距離を取る。その体からは汗がしとどに流れ落ち、リングに広がっていく。その上を、紫苑が滑らかな足取りで歩いていく。
 グレッグの汗が振り撒かれたリングの上でも、紫苑の姿勢が崩れることはない。
「・・・なぁんなんだ、お前はぁ!」
 驚きを顔に表したまま、グレッグが掴みかかって来る。
 紫苑の扇子がグレッグの喉仏へと吸い込まれた。喉を突かれたグレッグの動きが止まる。いきなりその膝が折れ、自らの汗溜まりに倒れ込む。この危険な倒れ方に、レフェリーが慌てて試合を止めた。

<カンカンカン!>

 漸くグレッグを下し、紫苑は大きく息を吐いた。しかし、自分の背に突き刺さる視線を感じて振り返る。
 その視線の先には、コーナーポストの上に蹲踞の体勢でいる人影があった。
「!」
 リングにまた別の男が現れたことに驚いて目を見張る。
「驚いた顔してどうした? 今回は二連戦だって言ってた筈だぞ。まさか、契約書をちゃんと読んで来なかったのか?」
 紫苑はレフェリーの言葉に首を振ったが、これだけでは契約書を読まなかったのか、闘う気がないと言いたいのかはわからなかった。

 グレッグの汗に塗れたリングを黒服達が手早く掃除し、元の状態に戻す。ここで、漸くコーナーポストの上にいた男がふわりと舞い降りる。
 リングに降り立ったのは、顔に猿を思わせる白と赤のメイクをし、侍を思わせる薄水色の裃と白足袋を身に着けた男だった。まるで仮面を着けているように無表情で、目だけがきょろきょろと動く。
 紫苑は、その感情を感じさせない目に気圧されていた。

 今度はレフェリーもボディチェックを行おうとはせず、場外の黒服に合図を送る。
「只今より、猿冠者(さるかじゃ) 対 嵯暁紫苑戦を開始します!」

<カーン!>

 姉の仇を討ったことで気が抜けてしまい、再び闘おうと気持ちを高めるのは難しかった。それでも扇子を構え、猿冠者の出方を窺う。
 猿冠者は紫苑に正対し、両手をだらりと下げている。上体を微かに揺らしているのは何のためだろうか。その動きに疑問を持った僅かの間に、猿冠者の顔が近くにあった。
「!」
 油断はしていなかった筈だが、瞬時に距離を詰められていた。慌てて振った扇子は屈むことでかわされ、手首を掴まれて一本背負いでリングに叩きつけられる。
「っ・・・!」
 痛みに呻きたくなるのを堪え、転がって距離を取る。猿冠者は追撃をして来るでもなく、紫苑をじっと見つめていた。何もしてこないことが返って恐ろしく、紫苑は前に出られなかった。
 猿冠者は、軽く膝を曲げた体勢のまま摺り足で距離を詰めてくる。紫苑は対抗策を考えることもできず、ただ扇子を構えるしかできなかった。
 猿冠者がじりじりと前に出てくる分、紫苑は後ろに下がる。その追い詰められていく状況は、猿冠者が動きを止めたことで紫苑の緊張感を僅かに緩ませ、吐息を生んだ。
 次の瞬間、猿冠者の裃が眼前にあった。
 下から手首を蹴り上げられ、扇子が手から離れる。紫苑の手を離れた扇子は、回転しながらリングの外へと落ちていく。自分の唯一の武器が、手の届かない場所へと消えていく。
 ジャンプまでの予備動作はまるでなかった。膝のバネだけで跳んだのだとしたら、猿冠者の身体能力はどれほどのものなのだろう。
 猿冠者は着地すると同時に紫苑の胴を抱え、居反り投げでリングに叩きつける。肺の空気が全て絞り出されたように感じながらも、紫苑は転がって追撃を避けようとする。
 しかし、立ち上がったときには既に目前に猿冠者がいた。その手が紫苑の衣装の胸元を掴む。
 次の瞬間にはメイド服の前が千切られ、薄ピンクのブラに包まれたFカップバストが剥き出しになる。
「!」
 小さいリボンのついたブラを両手で隠し、紫苑が下がる。
「ふふん、中々可愛いのを着けてるじゃないか」
 レフェリーの揶揄に真っ赤になる紫苑に、猿冠者がゆっくりと歩み寄る。その歩調には乱れがなく、滑るように距離を詰める。紫苑は左手で胸元を隠したまま右手を振るが、その手を掴まれて肩に担がれ、後頭部からリングに落とされる。
「・・・!・・・!」
 後頭部を押さえて呻く紫苑に猿冠者が屈み込み、衣装の上から器用にブラのホックを外す。そのまま紫苑の両手を背中側に回して左腕で抱え込み、紫苑の右脚を右手で持つ。そして両脚で紫苑の左脚を挟んで紫苑の動きを封じ、仰向けになる。
「やっとボディチェックができるなぁ紫苑選手」
 レフェリーがにやつきながら近づき、ブラの中に手を突っ込んで直接乳房を揉み始める。その不快感に紫苑は首を振るが、猿冠者の拘束は緩みもしなかった。
「でかくて柔らかいな。彼氏に揉まれてるのか?」
 レフェリーの軽口に、紫苑が真っ赤になる。
「まあそれはどうでもいいけどな。気持ちよければそれでいい」
 レフェリーは左の乳房を揉みながらメイド服のスカートを捲り上げ、下着を露わにする。
「!」
 隠そうとする手は後ろに捕らわれ、足も押さえられ蹴りも出せない。レフェリーはエプロンごとスカートの裾を帯に挟み込み、下着が隠れないようにする。
「ここはどうだ? 彼氏に触られたことあるのか?」
「!!」
 いきなりレフェリーに大事なところを触られ、紫苑の体が跳ねる。猿冠者も慌てて力を入れ直し、紫苑を身動きできなくする。
「強烈な反応だな。もしかして処女だったりするのか?」
 下着の上から秘部を撫でていたレフェリーの手が、下着の中にまで突っ込まれる。
「っ! っ!!」
 涙を浮かべて首を振る紫苑を見て、レフェリーが聞く。
「ギブアップか?」
 レフェリーの問いに、紫苑は何度も首を縦に振る。
「そうか・・・でもな、ギブアップはきちんと発音しなきゃ認められんなぁ!」
 レフェリーは紫苑のブラを掴み、無理やり剥ぎ取る。繋ぎ目が弾け、ブラはレフェリーの手に移った。
「!」
 露わにされた乳房を隠そうと暴れるが、猿冠者の拘束はまるで外れなかった。Fカップの乳房が揺れるだけとなり、レフェリーににやつきながら指摘される。
「でかい分揺れ方も凄いな。もっと揺すってもいいぞ」
 そう言われては羞恥が先に立ち、紫苑は暴れるのを止めた。
「なんだ、揺らすのはもうお終いか? なら、ボディチェックを続けるとしようか」
 レフェリーは紫苑の剥き出しにされた乳房を掴み、ゆっくりとしたリズムで揉んでいく。頭がおかしくなりそうなほどの羞恥に、紫苑はとうとう屈服した。
「・・・っ」
 紫苑の囁くようなギブアップはレフェリーの耳に届いた筈だが、レフェリーの返答は秘部への刺激だった。
「何を言ってるのか聞こえんなぁ。もっと大きな声で言ってくれよ」
 紫苑の性格を知ってのレフェリーの態度だった。直接秘部を撫で、淫核の辺りを刺激する。猿冠者は紫苑の乳房を掴み、乳首を弾きながら揉み込んでいた。紫苑は必死に首を振ってギブアップを言い続けたが、レフェリーはにやつき、紫苑の身体を弄ぶだけだった。

 紫苑は唯々嬲られ続けた。
 セクハラに耐性がない紫苑が失神した後も、レフェリーと猿冠者は紫苑の身体から離れようとはしなかった。剥き出しにされた乳房を揉みくちゃにし、スカートを大きく捲って露出させた下着の中に手を突っ込み、秘部を弄る。その嬲りは、いつ果てるとも知れなかった。


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