【特別試合 其の十一 菊烈子:ムエタイ】

 犠牲者の名は「菊烈子」。20歳。身長168cm、B92(Gカップ)・W61・H83。髪を黄色に染め、後頭部で紐で一纏めにしている。目元は鋭く男性的な性格だが、グラビアアイドルもかくやというナイスバディの持ち主。
 高校生のときタイに留学し、在留中にムエタイを学んだ。帰国後テコたちの通う大学に入学したが、ムエタイどころかキックボクシングのサークルもなく、取り合えずボクシング部(現在蛇武鉄美も所属)に入部した。
 八崎極、蛇武鉄美、八崎魅卦などと同じく、菊烈子にも<地下闘艶場>の淫らな誘いの手が伸びた。


「うっはぁ・・・これはこれは、かなりお上品な衣装ですこと」
 皮肉気に呟いた烈子の手にあるのは、ライトグレーのスーツだった。上はジャケットと白いワイシャツで、ワイシャツは胸の谷間が隠せないようにボタンが下三つまでしかついていない。下半身の衣装は膝までのタイトスカートだが、太ももの付け根まで深いスリットが入っている。
「これ着て闘うのかぁ。しょうがないっちゃしょうがないけど」
 まるでアダルトビデオに出てくるいけない女教師かOLみたいだ。高額のファイトマネーに釣られて参戦を承諾してみれば、まさかこんな衣装が待っているとは。
 ため息を一つ吐いてからエロいスーツを身につけ、一度鏡で確認してみる。案の定胸元は大きく開き、Gカップのバストが作る谷間が丸見えだ。タイトスカートもスリットがかなり上まで入っており、パンティのサイド部分がちらりと覗く。
「スリットはまあ、動きやすくしてるためかもね。でも、シャツのボタンは絶対谷間狙いだよな〜」
 無意識に気合の入った下着を着けてきたことを思い出し、烈子は頭を掻いた。
「・・・ふぅ」
 もう一度ため息を吐いてからオープンフィンガーグローブを手に嵌め、烈子はウォーミングアップを始めた。

 控え室を出て廊下を進み、花道に出る。その途端、花道を進む烈子に観客席から下品な冗談が飛んでくる。烈子のGカップバストや胸の谷間、容貌、スリットから覗く太ももを対象として、耳にしたくもない言葉が投げつけられる。
(こんの(ピー)野郎共、全員ぶっちめてやろうか)
 半ば本気でそう思ったが、高額のファイトマネーのためだと自分に言い聞かせ、なんとかリングに上がった。
 リングの上には蝶ネクタイを着けたレフェリーとレスリングタイツを身に着けた細身の男がいた。
(・・・男が相手? ま、ぶっ倒せば一緒か)
 さっさと倒して終わる。そう決めて烈子は拳を握りこんだ。

「赤コーナー、草橋恭三!」
 烈子の対戦相手は、ボクシング部の後輩である鉄美とも対戦した草橋だった。ただし、そのことを烈子は知らない。草橋の顔には表情というものがなく、仮面やサイボーグを思わせた。
「青コーナー、『菊一文字』、菊烈子!」
 烈子の名前がコールされた途端、観客席から草橋に対し、責め方の注文が飛ぶ。「バスト」、「ヒップ」、「揉む」、「脱」などといった単語が耳に入るたび、烈子の鋭い目尻が更に吊りあがる。

 草橋のボディチェックを終えたレフェリーが烈子に近づくが、その吊りあがった視線に腰が引ける。
「ボ、ボディチェックだ、菊選手」
「・・・ああ?」
 烈子の鋭い視線を受け、レフェリーが怯む。
「ボ、ボディチェックを受けなければ試合を始められん。それでもいいのか?」
 それでもボディチェックを諦めないのは、職業への誇りなのかどうなのか。
「・・・わかったよ、でも、絶対変なことすんなよ!」
 最後の科白は兎も角、烈子の承諾を得てレフェリーがボディチェックを開始する。腰の辺りを触っていたレフェリーは、ワイシャツの隙間から覗く谷間に目を吸い寄せられ、僅かに覗く真紅のブラににやける。
「こいつはまた・・・もう我慢できん!」
 両腕を触っていたレフェリーの手が、烈子のバストを掴む。次の瞬間、烈子はレフェリーの襟元を締め上げていた。
「こんのエロレフェリー、どこ触った! 今アタシのどこ触った、ああ!?」
 このままレフェリーを絞め殺しかねない勢いに、草橋が無表情のまま割って入る。難を逃れたレフェリーは、すぐにゴングを要求した。

<カーン!>

「・・・後で覚えてろよ、エロレフェリー!」
 ゴングが鳴った以上、烈子の頭は闘いに切り替えられていた。そのため、レフェリーがリング下の黒服に何か囁いていたことに気づかなかった。
 烈子はムエタイ特有の両手を高めに構えるアップライトスタイルで、前に出した左足を上下させてリズムを取る。ただ、普段よりもその上げ幅が小さい。下着が見えるかもしれないという、無意識の思いがそうさせるのだろう。
 無表情に距離を詰めてくる草橋に牽制のワンツーを放とうとしたが、ジャケットに引っ張られるようでまるで腕が伸びない。
(うぇっ、スーツって無茶苦茶動きにくい)
 手技が出せなくても足技があるが、ミニスカート姿では足技もあまり使いたくない。
「しょうがない!」
 ジャケットを脱ぎ捨て、再びアップライトに構える。途端に、観客席から歓声が起きる。強烈なスポットライトに、白いワイシャツの下の真紅のブラが透けて見えたからだ。
(くっそ、今日に限ってこんなの着けてくるなんて・・・アタシのバカ!)
 観客からの野次に、烈子の表情が曇る。自業自得といえば自業自得だが、まさかここまでエロ度の高い衣装を用意されるとは思ってもいなかったからだ。
 無表情で烈子の様子を窺っていた草橋が、じわりと距離を詰めてくる。
「フッ!」
 そこにワンツーを合わせようとした烈子だったが、いつもの切れがなかった。ワンツーをかいくぐった草橋の左手が、烈子のバストを掴む。
「! テメェもかっ!」
 反射的に草橋の首を抱え込み、膝蹴りを突き刺す。無表情だった草橋の顔が歪み、烈子を突き放して距離を取る。
「逃がすかぁっ!」
 草橋が下がるより烈子の出足が速かった。
「シィィィッ!」
 鋭い呼気と共に、烈子の体が左足を軸に回転する。一瞬の遅滞なく、右肘が草橋の顔側面を捉えていた。
 烈子の必殺技の回転ヒジ打ち・<ブラスターソード>だった。
 草橋の右こめかみから額までが切り裂かれ、草橋は糸の切れた人形のようにリングに崩れ落ちた。リングに倒れた草橋の頭部からは血が流れ、その身体はぴくりとも動かない。

<カンカンカン!>

 この光景に、レフェリーは慌ててゴングを要請していた。
「てめぇ、さっきはよくもアタシの胸触りやがったな!」
 ボディチェックのときのセクハラを忘れてはおらず、烈子はレフェリーを締め上げようと前に出た。しかし、いきなり脚を払われる。
「っ!」
 上手くバランスを取ることで転倒は免れたが、その間にレフェリーは攻撃の届かない位置に逃げ出していた。
「レ、レフェリーに手を上げようとするような選手には、ペナルティを課す! マンハッタンブラザーズ、やれ!」
 リング上に上がっていた覆面の二人が、烈子に向かって構える。二人は体格だけでなく、身に着けたマスク、レスリングタイツ、レスリングシューズまでもがお揃いだった。烈子を挟むような位置にじりじりと移動していく。
「面白ぇ、テメェはこいつらぶっ飛ばしてから、アタシの胸触った分をたっぷりと反省させてやるよ!」
 烈子は気合を込め、オープンフィンガーグローブを嵌めた両拳を打ちつけた。

<カーン!>

 今日二試合目のゴングが鳴った。
 観客が見つめる中、リング上の闘いはすぐには動かなかった。烈子は挟み撃ちされることを警戒し、徐々に立ち位置を変える。マンハッタンブラザーズの二人もそれに合わせて常に片方が烈子の死角を窺い、いつしか烈子はコーナーポストを背負っていた。
(こいつら、二人での闘いに慣れてやがるな。鬱陶しい)
 一人一人からは強者のオーラは感じないが、互いの死角を埋めるような立ち回りに隙がない。
(しゃぁない、一人ずつ潰す!)
 烈子がコーナーポストを出ようとした瞬間、1号が通常のドロップキックを、2号が低空のドロップキックを放つ。
「っ!」
 前に出ようとしたその瞬間に上下同時攻撃。反射神経の鋭い烈子でも完全にはかわせず、右肩と右膝を蹴られてしまう。
(しまった、油断したつもりはなかったけど!)
 素早く体を捻ったため深刻なダメージは負わなかったが、右膝に軽い痛みが走り、動きが鈍る。
「これしき!」
 精神力で痛みを無視し、その右足を踏み出して左のストレートを1号に突き刺す。これで1号は吹っ飛んだが、2号からローキックで右膝を抉られる。
「ぐぁぁっ!」
 痛めた箇所を再び攻められ、烈子の口から苦鳴が洩れる。
(くっそ、こんな軽い攻撃で・・・!)
 2号のローキックは然程威力はなかったものの、体重の乗ったところを蹴られたためかなりのダメージを受けてしまった。それでも追撃は許さず、右足を前に出したアップライトスタイルに構え直す。
(落ち着け、これくらいの痛みは散々経験してきた。この位で弱音吐けるか!)
 右膝の痛みを堪え、気合を入れ直す。そこに2号がタックルに来る。
「くぅっ」
 反射的に右足でのミドルキックを合わせようとしたが、痛みにスピードが落ちる。そのため威力も落ち、2号をよろめかせるだけで終わってしまう。この間に左ストレートでリングに倒れていた1号も立ち上がる。
(ちっ、タイマンのときに一人は倒しときたかったけど・・・)
 これでまた二対一に戻ってしまった。それでも自分が負けるとは思わない。
「マンハッタンブラザーズ、菊選手は脚を痛めてるぞ。休ませずに攻めろ!」
 レフェリーの指示を受けたマンハッタンブラザーズはサイドステップを繰り返し、烈子を揺さぶる。
(くそっ、横への動きに対応するのは辛いな・・・)
 左右に動くマンハッタンブラザーズに隙を見せないようにするなら、必然的に膝を使って体の向きを変えざるを得ない。例えその動きがフェイントだとはわかっていても、注意を割かざるを得ない。1号のタックルに構えた瞬間、2号の右腕が迫る。
「ちぃっ!」
 顔面を狙ったラリアートをすんでのところでガードする。しかし、マンハッタンブラザーズの狙いは別のところにあった。するりと近づいた1号からワイシャツの胸元を掴まれ、次の瞬間には音高く引き千切られる。
「っ!」
 完全に前が開き、真紅のブラに包まれたGカップバストが飛び出してくる。この光景に、観客席が沸く。
「なにしてんだテメェッ!」
 この行為に頭に血が上った烈子は、目の前にいた1号に肘を入れようとする。しかし、二対一の状態を忘れた攻撃は大きな隙を作った。肘が1号に届く前に2号から胴を抱えられ、バックドロップでリングに叩きつけられる。
「あぐぅっ!」
 後頭部を押さえてもがく烈子をマンハッタンブラザーズの二人が押さえつけ、動きを封じてしまう。
「ようやくボディチェックができるなぁ菊選手」
 レフェリーがにやけた笑みを口元に貼りつかせ、身動きできない烈子に近づく。
「今更ボディチェックもなにもないだろうが! 離せ、このぉっ!」
 烈子は拘束から逃れようと身を捩るが、マンハッタンブラザーズの二人からがっちりと捕らえられていてはそれも難しかった。
「近くで見るとまた結構なボリュームだな。どれ、感触は・・・」
「触るなこのド変態野郎!」
「ふん、なんとでも喚け。おっ、中々詰まったいいおっぱいしてるじゃないか。これで性格も女らしかったら満点なんだがなぁ」
 レフェリーは烈子のGカップバストをブラの上から鷲掴みにし、ゆっくりと円を描くように揉みしだく。
「テメェみたいなド変態が触ってんじゃねぇ! やめろ!」
 嫌悪感と不快感から烈子が叫ぶが、レフェリーは気にも留めずに烈子のバストを揉み続ける。
「これだけでかいと肩凝りも大変だろう? 今日は特別に俺がよーく揉み解してやるからな」
「肩凝りになったことなんかないし、テメェが触ってんのは肩じゃなくて胸だろうが!」
「そうか、ここだけ触られるのは嫌か。なら、ここはどうだ?」
 バストから離れたレフェリーの手がミニスカートを捲る。
「やっぱり、上とお揃いの真っ赤なパンツか。男を誘ってるのか?」
 レフェリーのふざけた物言いに、烈子が噛みつく。
「誰がそんなことするか! 大体・・・あっ!」
 烈子の言葉は、レフェリーが秘部を触ったことで止められた。
「ど、どこ触って・・・」
「ん? ああ、ボディチェックの続きだ、気にするな」
 レフェリーはにやりと笑い、そのまま秘部を弄り続ける。
「ボ、ボディチェックだからってそんなとこまで触る筈ないだろ!」
 この烈子の言葉に、レフェリーがとんでもない返答を返す。
「それじゃあ、ブラを取られるのとこのままアソコを弄られるの、どっちがいい?」
 あまりの提案に、烈子は一瞬言葉を失った。
「そ、そんな二択選べるかっ!」
「そうか、俺に任せるってことだな」
 レフェリーはにやりと笑うと、右手で烈子の秘部を弄りながら、左手でブラをずらす。そのため、Gカップを誇る巨乳が揺れながら姿を現す。
「てめぇ、なにして・・・!」
「俺に任せたんだから、両方同時にしてやった。感謝しろよ」
 レフェリーはそう嘯くと、左手で乳房と乳首を同時に弄る。右手は秘部を弄ったままだ。
「ふざけんな! こんなことして・・・あっ、テメェらまで・・・!」
 レフェリーだけでなく、マンハッタンブラザーズの二人も烈子の肢体に手を伸ばす。男達の手に体中を弄られ、嫌悪感から身を捩る。
「くそぉ、こんなんじゃなくて、まともに試合しやがれ!」
「ふん、観客も喜んでくれているんだ、このまま徹底的に嬲ってやる」
 レフェリーは鼻で笑うと、烈子のパンティの中にまで手を突っ込んでくる。
「やめろーーーっ!」
 あまりのことに、烈子は絶叫していた。
「なんだ、そんな大声出して。お前も喜んでくれたのか?」
 レフェリーは烈子の秘部を直接弄りながら、厭らしい笑みを浮かべる。マンハッタンブラザーズの二人は左右の乳房を同時に揉んでいる。勝気な烈子にとって、屈辱の時間が流れていった。

(こいつら、いつまでこんなことするつもりだ・・・)
 唇を噛みしめて男達の責めを耐える烈子。そのとき、マンハッタンブラザーズの拘束が緩んでいることに気づいた。
「い・・・いつまでも、人の身体触りまくってんじゃねぇっ!」
 烈子の乳房に夢中になっていたマンハッタンブラザーズの二人の頭を捕まえ、思い切りぶつけてやる。鈍い音がリングの外まで響き、1号も2号も頭を抱えて蹲る。
「テメェもどけっ!」
 レフェリーを蹴り飛ばし、ようやく立ち上がる。ずらされたブラを元に戻し、怒りに燃える眼光でマンハッタンブラザーズの二人を見据える。
「シッ!」
 左脚で踏み切ると同時に、立ち上がりかけていた1号の顎に左膝を突き刺す。たった一撃で1号はリングに倒れ込んだ。
「シィィィッ!」
 着地と同時に左脚を軸にしての<ブラスターソード>で2号の右頬を抉る。マスクを半ばまで切り裂いた一撃に、2号は白目を剥いてリングへと崩れ落ちた。

<カンカンカン!>

 マンハッタンブラザーズの危険な倒れ方に、レフェリーは即座にゴングを要請していた。
「さぁって、後はテメェだけだぜ」
 レフェリーの視界に、指を鳴らしながら自分へと向かってくる烈子の姿が映る。
「う・・・うわぁっ!」
 烈子の迫力に、レフェリーは身を翻してリングから逃げようとした。
「逃すかっ!」
 その後頭部に、烈子の飛び膝蹴りが炸裂した。レフェリーは顔面から勢いよくリングに倒れ込み、鼻血を吹き出して失神した。
「思い知ったかこの野郎! ・・・ててて」
 烈子は右脚を引きずりながらリングを後にした。ブラも露わに退場していく烈子に、観客からは賞賛の拍手と欲望に満ちた視線が送られた。

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