二回戦第八試合
（マスク・ド・タランチュラ 対 於鶴涼子）
「これより本日最後の試合、二回戦第八試合を行います！」
黒服の合図と共に、＜地下闘艶場＞でも良く知られた二人の選手がリングへと上がる。
「赤コーナー、『地に潜む蜘蛛』、マスク・ド・タランチュラ！」
蜘蛛をモチーフにしたマスクを被ったマスク・ド・タランチュラがリングに姿を現すと、観客からは大声援が送られる。マスク・ド・タランチュラは自分の膝に届くほどの長腕を差し上げ、その声援に応えた。
一回戦ではニナ・ガン・ブルトンと対戦し、ニナから（不本意な）ギブアップを奪っている。
「青コーナー、『クールビューティ』、於鶴涼子！」
「於鶴涼子」。２１歳。身長１６３ｃｍ、Ｂ８５（Ｄカップ）・Ｗ６０・Ｈ８３。「御前」の所有する企業の一つ「奏星社」で受付をしている。長く綺麗な黒髪と涼しげな目、すっと通った鼻梁、引き結ばれた口元。独特の風貌を持つ和風美人。
一回戦は早矢仕杜丸と対戦したが、最後は早矢仕がレフェリーの志乃にセクハラし、早矢仕はその志乃にＫＯされて反則負けを宣言されると言う情けない終わり方となっている。
今日もいつもどおり長い黒髪をポニーテールに纏め、白い道衣と黒い袴、胸にはサラシという格好だった。
＜地下闘艶場＞に何度も参戦しているマスク・ド・タランチュラと涼子だったが、意外にもこの組み合わせは初めてだった。
この試合を裁くのはミニスカート姿の志乃だった。にやつくマスク・ド・タランチュラと冷静な涼子のボディチェックを終え、諸注意を与えた後でゴングを要請した。
＜カーン！＞
「へぇ、これが噂の涼子ちゃんか。すっげぇ美人だな」
マスク・ド・タランチュラの独り言に反応もせず、涼子は距離を詰める。
「噂どおり冷たいなぁっ！」
マスク・ド・タランチュラが横殴りに振った腕の手首を掴んだ涼子が、小手返しを狙う。
「うおっと！」
しかしマスク・ド・タランチュラは腕を返し、肘を外に逃がして極めさせない。
「そらっ！」
即座に逆の腕が涼子に襲い掛かる。涼子はマスク・ド・タランチュラの手首を放し、一旦思い切って距離を取る。
（常人離れした腕の長さ・・・やりにくいですね）
攻撃にリーチがあり、加えて腕が長すぎるため、支点が探りにくい。相手の腕を取っての投げを得意とする涼子には相性が悪い選手だった。
「隙ありぃっ！」
マスク・ド・タランチュラの長い両腕が伸び、次の一手を考えていた涼子のバストを掴んだ。
「おおっ、サラシの上からでもこの感触！ ぜひ生で味わいた・・・っ！」
最後まで言い終わることはできなかった。涼子が仮借ない力でマスク・ド・タランチュラの肘を叩いたからだ。
「人の胸を無造作に触るとは・・・お仕置きが必要ですね」
肘を押さえて呻くマスク・ド・タランチュラに、涼子が夜叉の表情で歩み寄る。
「い、いやだなぁ涼子ちゃん、ちょっとしたお茶目・・・っ！」
言い訳も顔面への掌底で止められる。
「いてて・・・でも、ただじゃやられねぇぞ！」
なんとその状態からマスク・ド・タランチュラの腕が涼子の背後に回り、道衣の襟を掴んで引き下ろした。
「くっ！」
急いで服装を正そうとした涼子だったが、それを許すマスク・ド・タランチュラではなかった。更に襟を下ろし、涼子の腕を抜いただけでなく袴からも抜いてしまう。
「涼子ちゃんの上着げ〜っと！」
一度頭上で振り回し、場外に放り投げる。
「さて、次はサラシ・・・」
言い終える前にマスク・ド・タランチュラは宙を舞っていた。
「ぐはっ・・・いてて！」
一度リングに叩きつけられた体が、手首から走る痛みに再び立ち上がらせられる。更に投げ技を食らい、また起こされる。繰り返される痛みの連鎖に、耐久力の高いプロレスラーであるマスク・ド・タランチュラの意識が遠のいていく。
涼子は小手投げを打ち、手首を極めてまた立ち上がらせ、更に投げるということを繰り返していた。最後にはマスク・ド・タランチュラの体から力が抜け、手首を極めても反応しなくなる。マスク・ド・タランチュラの意識が失われたと見て、志乃がゴングを要請する。
＜カンカンカン！＞
ゴングが鳴ったところで、涼子が漸くマスク・ド・タランチュラの手首を放り出す。そのまま退場していくサラシ姿の涼子に、観客からは大きな声援が送られていた。
二回戦第八試合勝者 於鶴涼子
三回戦進出決定
