【A&A 其の六−1】   投稿者:小師様  推敲手伝い:事務員

 「お主の娘たちが頑張ってくれたおかげで、また生き延びる機会を得たのだ。もう少し嬉しそうな顔をしてはどうだ?」

 濃紺の和服に身を包んだ白髪の男が、壮年の男性に皮肉をたっぷりと利かせた声をかける。壮年の男性の髪には白いものが目立ち始めていた。両者の肌の張りを見ると、どちらが年上なのか即座には判別できない。

 「お主の撒いた種を娘たちが刈り取る姿、きっちりと見届けよ。例えそれが、どんなに淫らな姿であったとしても、な」

 壮年の男性は何も言い返せず、窓の向こうのリングを虚ろな視線で見るしかできなかった。



 犠牲者の名前は「真里谷(まりがやつ)暁子(あきこ)」。身長161cm、B90(Fカップ)、W58、H88。年齢不相応に大人びた顔立ちをした美少女。細く整えられた眉、切れ長の目、高い鼻梁から形の良い小鼻へと続き、その下には濡れたような瑞々しい唇がある。何故か眼の色が左右で違うが、大人びた美貌を損なうどころか一層魅力的なものへと変えている。切れ長の目がキツイ印象を与えることもあるが、普段は柔和な表情をしている。栗色の髪を肩甲骨まで伸ばし、ポニーテールに纏めている。
 先の試合では恵比川福男を瞬殺したものの、二試合目に行われた三人組に徹底的に嬲り者にされた上に引き分けてしまった。当然養父を解放させるに至らず、果ては自らの体を「御前」に差し出し、最後のチャンスを得ていた。それを無駄にしない為、暁子はより一層の修行に没頭した。泣いても笑っても今日が最後だと知っているため。

 花道に暁子が姿を現した。その途端、会場が割れんばかりの歓声に包みこまれる。
 魅惑的な肢体にピタリと張りついた長袖インナースーツは紫紺で、等辺が長い二等辺三角形の前垂れが付いている。詰襟付きの短衣と、ロングスカートの前を切り落としたような腰布。ベルトには×字に紫紺の紐が縫い付けられ、左右から鎧を模した二枚ずつの装飾が垂れている。牡丹鼠の手甲を模したオープンフィンガーグローブとリングシューズを着け、髪は黄色いリボンでポニーテールにしている。竹刀と巾着袋を携えるその姿は、幻想世界の騎士、否、侍と言ったところだろうか。
 巾着袋はリング下に置き、獣欲迸る熱気や歓声をものともせずにリングに上がってみせるが、まだ対戦相手は来ていないようだった。

 「真里谷選手、久しぶりだな」

 声をかけてきたのは先の試合前に叩きのめしたレフェリーだった。

 「貴男の声を聞くとイライラするんですよ。できれば私に触らないで、話しかけないで頂けると助かるんですが」

 暁子は明らかに不機嫌であることを隠そうともしない声色で拒絶する。

 「これはまた随分嫌われたもんだ・・・まぁいい、今日はスペシャルゲストを呼んである。拍手で迎えてくれ」

 そしてレフェリーが別の花道を指差す。そこから現れたのは・・・

 「お・・・お嬢様!!?」

 「霧生(きりゅう)綾乃(あやの)」、17歳。身長158cm、B87(Eカップ)、W59、H83。顔のラインは卵形で、細く整えられた眉、煌くような丸い目、ふっくらとした唇には艶がある。綺麗というよりも可愛らしさを感じさせる美少女。
 前回は恵比川福男を相手に闘った。善戦はしたものの、徹底的に嬲り尽くされ最終的にはギブアップを喫した。その後行われた暁子の試合にもセコンドとして参戦したが、ここでも嬲り者にされた。二度の屈辱を糧にし、今度こそ父親を無事に救うべく今日まで徹底的に鍛え上げてきた。大事にしてきた黒髪を切り落としてまでの決意は並々ならぬものを感じさせる。
 今回の衣装は、黒地に金の縁取りの長袖インナースーツ、マントのようなふわりとした腰巻、白の襟詰め付きの短衣。腰巻を留めるベルトには金の鎧を模した3枚ずつの装飾が輝く。黒のオープンフィンガーグローブに、甲に×字の模様が付いた黒のブーツ。さらに頭には白のベレー帽をかぶっていた。その姿は騎士達を纏める主の風格がある。

 「暁子・・・」
 「どうして、こんな所に・・・?」
 「・・・ごめんね」

 その一言で全て読み取れた。恐らく最初からここに呼ばれていたのだろう。

 (私は・・・)

 綾乃の行動を読み切れなかった自分に腹が立つ。情けなくて、悲しくて、弱い自分が嫌になる。しかしここに来てしまった以上は最早逃げられないのだ。

 「暁子」
 「何でしょうか」

 苛立ちから、暁子は少々ぶっきらぼうに返事をする。その声を聞いた綾乃が少し萎縮してしまったように見えた。

 「わ、私の事はいいからね。暁子は暁子の」
 「・・・」
 「え?」

 暁子が洩らした呟きに、綾乃は思わず訊き返していた。

 「いえ、いいんです。余計なことを申しました」
 「え・・・」
 「お二人さん、そろそろ相手を呼んでもいいかな?」

 話しこんでいる二人にレフェリーが声をかける。暁子は何も答えずにレフェリーを睨みつける。

 「はい、いつでもどうぞ」
 「ま、もう来ているがね」

 いつの間にかリングの下に二人の男の姿があった。一人は160cmくらいの小柄な男、もう一人は175cmくらいで目の下に薄い痣があった。

 「もういいそうだ。ほれ、二人とも上がれ」

 レフェリーの合図とともに二人が同時にリングに入る。小柄な男はその身軽さを生かしてトップロープを掴んでジャンプして飛び越える。もう一人はサードロープの下を転がって入ってきた。昔と変わらずあまり俊敏とは言いにくい。

 「あ、あ、暁子さん、ひさ、久しぶり、ですね」
 「・・・ええ、久しぶりですね、信広様。残念ながらお元気そうで」

 暁子が信広と呼んだ男がリングに入ってきた。その瞬間から、暁子の眉間には皺が寄っていた。暗い雰囲気に喋りが下手、おまけに下心丸出しでは嫌悪感が先に立つというものだ。

 「ど、どうですか、今の生活は。む、む・・・昔とは、違うでしょう?」
 「霧生の家は大地主でした。それこそ本家など軽く捻ることができるくらいの、ね」
 「そう、ですか。・・・何か、手助けできる、ことが、あったら」
 「不要です。困っていても助けを求めるつもりはありませんから」

 綾乃の目から見て、この長身の男は暁子に気があるようだ、とすぐに気が付いた。しかし笑えるくらいバッサリと暁子が一刀両断したことに、逆に不憫さを感じた。

 「そ、そんなことは、ありま、せんよ。いつ、いつで、も、馳せ参じます」
 「何を請求されるか分かったものではありませんからね。ですから不要です」

 暁子は初対面の時の少しだけ欲の混じった目が忘れられなかった。今はこうして普通の男っぽい事を言っていても、どこで狼になるかわからない。もしかしたらすでにもう狼なのかもしれない。

 「話しはそれくらいにして、霧生選手と真里谷選手は今回の試合の流れは聞いているか?」
 「はい」
 「・・・いえ」

 いえ、と答えたのは意外にも暁子だった。暁子は最初から一人で三連戦をこなすつもりであったために試合形式が書いていなかったことは特に気にも留めていなかったのだ。何があっても、勝たなければ一生を奴隷として終えなければならないのだから。

 「真里谷選手にしては珍しいな。まぁいい、説明をしようか。しかしタダというわけにはなぁ」

 何かを考えているのかはすぐにわかる。厭らしい視線が暁子の胸元に注がれているからだ。

 「暁子、私が説明を・・・」
 「おいおい、レフェリーの仕事を奪うつもりか? 感心しないなぁ霧生選手。出過ぎた真似をされると、試合を始められないぞ」

 レフェリーの視線に気づいた綾乃が説明を申し出るが、レフェリーは言外の脅迫でこれを封じる。聡明な綾乃がその脅迫に気づかないわけがない。綾乃は引き下がるしかなかった。

 「さ、動くなよ真里谷選手。動いては説明ができないからな。説明が終わらないと試合も始められないしな」

 言うが早いか、レフェリーは暁子の胸に手を伸ばし、揉み回す。不快感が暁子の顔を歪ませる。

 「嫌な顔するなよ、説明する気がなくなるじゃないか」

 もう片方の手がにやつきながら暁子の股間を動き回る。

 「なっ!」

 暁子の驚きなど気にもせず、レフェリーは説明を始めた。

 「まず一試合目は霧生選手、二試合目は真里谷選手のシングル戦だ」

 そこで何故かレフェリーは一旦言葉を切った。しかし手は動くことをやめず、暁子の身体の上を這いずり回る。

 「・・・説明がまだ途中ですが」
 「ああ、そうだったな。ちょっとど忘れしたようだ」

 そんなことはないだろうに、レフェリーはにやつきながら胸を揉み、秘部を弄ってくる。

 「三試合目はタッグマッチでエリミネーション戦だ。わかってくれたかな?」
 「く・・・」
 「返事が聞こえないが、わかってないなら最初から説明しよう」

 暁子が屈辱を噛み殺しているのをいいことに、レフェリーは尚も胸を捏ね、秘部を撫で回す。

 「充分に理解しました。もう結構です」
 「遠慮するな、もう一度説明してやるから」

 レフェリーは尚もセクハラをやめようとはせず、ご丁寧に最初から説明を繰り返す。その間右手で暁子の左胸を、左手で秘部を弄り、自分の欲望を満たそうとする。

 「一試合目は霧生選手、二試合目は真里谷選手のシングル戦になる。そして三試合目はタッグマッチでエリミネーション戦だ。どうだ? 覚えたかな?」
 「先程言ったとおり、充分に理解しました」
 「そうか、なら・・・」

 レフェリーが唇を歪め、信じられない言葉を吐く。

 「これから、観客への説明を行うからな。その間もじっとしているんだぞ」
 「そんな!」「なっ!?」

 綾乃も暁子も驚きの声を上げる。

 「当り前だろう。お前たちがわかっても、お客さんがわからなきゃ意味がないじゃないか」

 それならば、最初から観客向けの説明をすればそれで済む筈だ。暁子だけへの説明は必要ない。しかし、レフェリーは自らの欲望を満たすためか、卑劣な罠を仕掛けていた。

 (前回の試合で、このようなことをする人間だとわかっていれば・・・)

 前回の試合、暁子は綾乃の初戦にセクハラを行ったレフェリーを一撃で気絶させ、退場させていた。レフェリーの今回の行動は、あのときの恨みも含まれているのだろう。今逆らえば、どんな因縁をつけられるか。暁子は尚も耐えるしかできなかった。
 しかし、黙っていられない者も居た。

 「でも、それは・・・!」
 「なんだ、霧生選手が変わってくれるのか? 俺はそれでも構わんぞ」

 暁子の秘部を弄りながら、綾乃に向かってレフェリーがにやつく。

 「・・・それなら、私が」
 「お嬢様!」

 綾乃の機先を制し、暁子が叫ぶ。綾乃に、このようなセクハラの身代わりなどさせられない。自分が我慢すればいいだけなのだから。

 「私なら・・・大丈夫ですから」
 「暁子・・・ごめん」

 両手をぎゅっと握りしめた綾乃は、そっと視線を外した。できれば暁子と交代したい。しかし、このリングで嬲られた記憶が綾乃を竦ませる。

 「真里谷選手が俺の相手をしてくれるんだな。本当はこういうことが好きなんだろう?」

 暁子の胸を揉む手をやめず、レフェリーが下品な冗談を飛ばす。

 「くっ・・・」

 どんなに腹が立っても、どんなに悔しくても、暁子に拒むことはできない。暁子が拒めば綾乃が辱められてしまう。綾乃を守ると決めたのだ、どんな屈辱でも受け入れなくては。
 黙り込んだ暁子を嬉しそうに眺めたレフェリーが、視線をリング外に向ける。

 「それじゃ、始めてくれ」

 暁子の両胸を揉みしだきながら、レフェリーがリング下に合図を送る。

 「会場の皆様にお知らせ致します」

 マイクを持った黒服が、観客に向けて説明を始める。今回は三試合が行われること、最初は綾乃のシングル戦、二戦目は暁子の武器戦、最終戦は綾乃と暁子のタッグ戦だということを。

 「そして、全試合の勝敗によって、霧生綾乃選手と真里谷暁子選手の今後の運命が変わります」

 この発表で、観客席がざわめく。

 「全ての試合で勝利を挙げれば、二人の父親である霧生社長が抱える借金はなくなり、社長も二人のもとに戻ってきます。二勝すれば借金はなくなり、社長は戻りますが、二人は『御前』の夜伽を行わなければなりません」

 一つ負けるごとに、二人の美少女の運命はどんどんと暗くなる。そのことに観客も気づく。

 「一勝だけしか挙げられない場合、借金はなくなりますが、長期間二人は『御前』への奉仕を行う必要があります」

 長期間の「御前」への奉仕。それは、<地下闘艶場>への強制出場も含まれるのではないか。観客の期待が膨らむ。

 「そして、もし一度も勝てずに三連敗を喫した場合・・・」

 黒服が言葉を切り、会場が奇妙な静寂に包まれる。その間も暁子はレフェリーにセクハラを受け続けている。胸を揉まれ、秘部を撫でられながらも、抵抗も、逃げることもできずにレフェリーの好き勝手に身体を弄られる。

 「二人は、『御前』の奴隷となります。何を言われても、何をされても、どう扱われても、『御前』に絶対服従する存在に堕ちます」

 美少女二人の運命は、これから行われる淫らな闘いの結果で決まる。ほとんどの観客が、暁子と綾乃の全敗を望んでいた。レフェリーから身体を自由に弄り回され、それをただ見ることしかできない美少女二人の敗戦を。

 (絶対に負けられない。でも・・・)

 綾乃は震えそうになる足を必死で堪えていた。それはそうだろう、初戦では全裸に剥かれ、何度も絶頂させられたのだ。暁子の試合でセコンドについたときにも、男たちに狙われ、セクハラを受けている。

 (・・・勝たなくちゃ)

 父親と、暁子のためにも。そう自らに言い聞かせても、綾乃は不安を拭い去れなかった。

 「・・・説明は終わったようですが」

 いまだに暁子の右胸を揉み、秘部を弄り、ヒップに股間を擦りつけるレフェリーに、暁子が冷たく告げる。

 「そうだな、そろそろ終わるとしようか」

 最後に暁子の尻を撫で回してからレフェリーが離れていく。暁子の顔は屈辱と怒りで赤らんで見えた。

 「では早速試合を始めようか。ではまずは霧生選手からだ」
 「はい」
 「ぼ、僕、ですね。こ、こ、こちらも・・・相当な美人さんで」
 「え!?」

 暁子の予想に反し、綾乃の相手に名乗り出たのは信広だった。

 「武器戦は、・・・苦手ですからね」
 「そんな・・・!」

 暁子は信広を見た瞬間から試合運びを全てシミュレートしていた。しかし彼は綾乃と試合をする、と言ったのだ。

 「・・・逃げるのですか?」
 「勝つ、ための、知恵、です」

 暁子の挑発には取り合わずに残りの二人をリングから下げるようにレフェリーに合図する。

 「さぁ、他の二人はリング下に降りろ」
 「相手の選手を先に降ろしてください」

 もう一人の男はなかなか降りようとしない。こちらを見てにやついている。

 「ほれ、早く降りろ」
 「ちぇっ、しょうがねぇなぁ」

 小さい男も仕方なしに下がっていく。それを見て、暁子は綾乃に何か言葉をかけてからトップロープを飛び越えてリング下に降りた。


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