【第百一話 小比類川彩萌:プロレス】

 犠牲者の名は「小比類川(こひるいがわ)彩萌(あやめ)」。19歳。身長160cm、B84(Dカップ)・W61・H89。ストレートの黒髪を背中まで伸ばし、普段は一纏めにしている。下がり気味の目尻と長い睫毛、高い鼻、桃色の唇はほんわかとした雰囲気を感じさせる。モデル並みのプロポーションをしているが、特にヒップは絶品。ほとんどの男性が、彩萌の後ろ姿に思わず振り返るほどの見返り美人。

 日本最大の女子プロレス団体「ライジングドラゴン」で活躍する若手の一人。そこそこの家柄の育ちだが、世間知らずのお嬢様キャラで闘っている。美しいラインと張りのあるヒップが自慢で、試合でもヒップを使った技で観客を沸かせる。

「ライジングドラゴン」所属ヒールである"雷神"コンビが<地下闘艶場>で敗北を喫してしまったため、「ライジングドラゴン」へ懲罰が科せられた。彩萌本人はそれを知る由もなく、淫闘のリングへと上がることとなった。

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 ガウンを羽織った彩萌が花道に登場する。スポットライトに照らし出された彩萌は輝きを放っていた。「JJJ」の選手もそうだったが、やはり人に見られる世界に身を置くプロフェッショナルは見られ方も一流だった。

 一瞬静まった観客席が、歓声に沸いた。

「赤コーナー、『神秘の獅子』、ミステリオ・レオパルド!」

 彩萌の対戦相手はマスクマンだった。よく日に焼けた体と絞り込まれた筋肉が、かなりの実力を感じさせる。マスクには幾何学文様があしらわれている。

「青コーナー、『美尻☆プリンセス』、小比類川彩萌!」

 コールを受けた彩萌は、ガウンを勢い良く脱ぎ去った。その下から現れたのは、彩萌が普段身に着けているコスチュームだった。

 基本は白のワンピース水着で、鎖骨から肩のラインが出るように襟がカットされている。腰からミニスカートに似た形状のフリルが垂れ、肩口にもフリルがある。胸の膨らみ、引き締まったお腹回りもそうだが、特にヒップから太ももにかけてのラインは美しく、観客の視線が集中する。

 プロのレスラーとして、彩萌は観客席へと手を振った、内心、己に向けられる剥き出しの欲望の強烈さに眉を顰めながら。

「それじゃ、ボディチェックだ」

 男性レフェリーがにやつきながら、彩萌へと近づいてくる。

「・・・今回は無しにしときません?」

 男性から触られることへの忌避感から、彩萌はそう提案していた。

「ボディチェックを拒むつもりか? さては、何か隠しているな!」

 叫んだレフェリーが、いきなりバストを鷲掴みにする。次の瞬間、乾いた音がリングに響く。

「い、いきなり、どこ触ってるの!」

 怒りに震える彩萌が、レフェリーの頬を張った音だった。

「・・・き、貴様! レフェリーに何をする!」

「それはこっちの科白でしょ! 人の胸を触るなんて、何考えてるのよ!」

「ボディチェックに決まっているだろう!」

「こんなボディチェックがあるわけないわ!」

「ここは<地下闘艶場>だ! ここじゃ当り前なんだよ!」

 レフェリーと彩萌の言い合いはどんどんヒートアップしていく。そんなことはどうでもいいのか、ミステリオ・レオパルドは彩萌の肢体をじっくりと観賞していた。

「くそっ、ボディチェックを受けなかったこと、後悔するなよ。ゴング!」

<カーン!>

「後悔するのはそっちのほうよ!」

 ゴングが鳴っても、彩萌はレフェリーへ怒声を浴びせていた。それでも隙は見せず、ミステリオ・レオパルドに半身で対する。

「コッヒーと闘える日が来るなんてなぁ。<地下闘艶場>に参戦してて良かったぜ」

 彩萌を愛称で呼び、ミステリオ・レオパルドは一人頷く。

「お生憎様。すぐに後悔させてあげる」

 ヒップを払った彩萌が、ミステリオ・レオパルドを挑発する。初めての対男性選手戦だが、緊張は感じさせない。

「へへ、そう上手くいくか・・・なっ!」

 軽くリズムを取ったミステリオ・レオパルドが、言葉の途中でタックルを仕掛ける。しかし、彩萌のヒップアタックが顔面を捉えていた。カウンターを貰ったミステリオ・レオパルドは後転するが、すぐに立ち上がる。

「いてて・・・だけど、食らって嬉しい技だぜ」

 強い衝撃ではあったが、彩萌のヒップの感触も味わうことができた。ミステリオ・レオパルドの頬が思わず緩む。

「そういうことなら、何度でも味あわせてあげてもいいわよ?」

 彩萌が上半身を捻り、ヒップをミステリオ・レオパルドに向けて挑発する。

「おほっ! ぜひお願いするぜ!」

 鼻の下を伸ばしたミステリオ・レオパルドが、またもタックルを仕掛ける。しかも先程よりも腰高だ。

(そんな舐めた攻撃!)

 ヒップアタックと見せ、ローリングソバットを放つ。しかし蹴りは空を切った。ミステリオ・レオパルドが前転で掻い潜ったためだ。

 彩萌の背後を取ったミステリオ・レオパルドの両腕が、彩萌の腰をクラッチする。

「させない!」

 バックドロップはさせまいと、彩萌はミステリオ・レオパルドの頭部をヘッドロックに捕えて堪える。

「うは、おっぱいの感触が!」

 にやけたミステリオ・レオパルドは、腰のクラッチを外して彩萌の胸に触れる。

「やっ、ちょっと!」

 思わず力が緩んだ瞬間、バックドロップでリングに叩きつけられていた。

「うう・・・」

 後頭部を押さえて痛みを堪えていると、俯せにされて腰に乗られる。それだけでは終わらず、ヒップを撫でられる。

「うっは、やっぱりコッヒーのお尻の感触は最高だぜ!」

 彩萌の鍛えられ、引き締まっているが柔らかさも失っていないヒップを、ミステリオ・レオパルドはひたすら撫で回す。

「いつまで触ってるのよ!」

 両腕に力を込め、腕立て伏せの要領で上体を起こし、回転しながらミステリオ・レオパルドを振り落す。

「おっと」

 ひょいと立ち上がったミステリオ・レオパルドは彩萌の背後に回り、両手首を捕まえ、彩萌のお尻に乗るような体勢になる。そのまま両足を彩萌の脚に絡め、<パロスペシャル>に極める。

「小比類川選手、ギブアップか?」

 彩萌の前に立ったレフェリーが、ギブアップの確認をしながら両胸を揉んでくる。

「な、なんで胸を触ってるのよ・・・!」

「さっきボディチェックを拒んだからな、レフェリーとしては見逃せないんだよ」

 勝手なことを言いながら、レフェリーは彩萌のバストを揉み回す。

「ぐうぅ・・・っ」

 パロスペシャルの痛みとセクハラの不快感が、彩萌の眉を顰めさせる。

「コッヒー、ギブアップしてもいいんだぜ?」

「そうだぞ小比類川選手、ギブアップするか?」

 男たちが彩萌を責めながら、ギブアップを強要してくる。

(こいつらなんかに、ギブアップなんて・・・ええっ!?)

 覚悟を決めようとした彩萌だったが、レフェリーがバストだけでなく、秘部まで弄りだしたことで顔色を変える。

「ちょっ、まっ、ど、どこ触って!」

「ん? 女にしかない隠し場所だ。ボディチェックを拒むような選手は、隅々まで調べておかないとなぁ」

「やっ、ちょっと・・・えあっ!?」

 セクハラの刺激に彩萌の膝が崩れ、リングに倒れ伏してしまう。

「コッヒー、まだまだお寝んねには早いぜ。そら、こいつはどうだ!」

 腰かけられたまま両腕を引き絞られ、彩萌の肩が痛みに軋む。

「危ないなぁ小比類川選手、危うく下敷きにされるところだったじゃないか」

 倒れてくる彩萌からぎりぎりで逃げたレフェリーが、改めてバストを揉んでくる。

(逃げ足だけは速いんだから!)

 唇を噛んだ彩萌は、肩の痛みとセクハラを耐える。

「コッヒーもこの技飽きただろ?」

 彩萌の耳元に囁いたミステリオ・レオパルドが、彩萌ごと回転する。

「お次は、こいつだ!」

 ミステリオ・レオパルドは胴締めスリーパーへと移行し、彩萌の胴と首を攻める。

「で、これから・・・」

 ミステリオ・レオパルドは胴締めスリーパーから、胴体を締めていた両脚を下ろし、彩萌の太ももの間にこじ入れて開脚させる。美少女レスラーの大股開きに、観客たちが歓声を上げる。

「へへ、思ったとおりだ。コッヒーのお尻が、俺のモノに当たって最高!」

 股間で彩萌のヒップの感触を味わいながら、ミステリオ・レオパルドが思い切り鼻の下を伸ばす。

「小比類川選手、大丈夫か? 落ちてないか?」

 さも心配だと言わんばかりのレフェリーが、言葉の内容とは裏腹に欲望のままにバストを鷲掴みにし、捏ね回す。

「ぐぅっ」

 ミステリオ・レオパルドのスリーパーの掛かりが深く、両手でミステリオ・レオパルドの右腕を引っ張り、意識を失わないようにするのが精一杯だ。そのためレフェリーのセクハラに抵抗できない。

「なんだ、返事もないのか。これは心配だな」

 にやついたレフェリーは、左手でバストを揉み続けながら、右手で彩萌の秘部を撫で回す。

「おいミステリオ・レオパルド、本気で落としたらどうだ? そのほうが下手な抵抗もなくて楽しめるぞ」

「いやいや、コッヒーが逃げようともぞもぞヒップを動かすのが気持ち良くて。暫くこのままだよ」

 男たちの勝手な会話に、彩萌の怒りの炎が燃え上がる。

(この、変態男ども・・・!)

 不快な感触を我慢し、スリーパーが深く極まらないようにしながら、一度顎を引き、思い切り後ろに頭を振る。

「ぶべっ!」

 ミステリオ・レオパルドのにやけ面が一転、鼻を潰された痛みに歪む。ホールドが緩んだ隙に胴締めスリーパーから脱出し、レフェリーの手からも逃れる。

「この・・・エロレスラー!」

 彩萌はミステリオ・レオパルドのマスクを掴んで上半身を引き起こすと、自分は立ったままヒップでの顔面攻撃を行う。

「ぐおっ!?」

 常人がするのではない。女子プロレス最大団体のプロレスラーである彩萌が行うのだ。腰の回転の乗ったヒップがミステリオ・レオパルドの顔面を捉えるたび、ミステリオ・レオパルドの苦鳴が起きる。

 実に十発ものヒップアタックが繰り返され、彩萌が手を放すとミステリオ・レオパルドがダウンする。

「まだ終わらないわよ!」

 ロープに走った彩萌が反動を使い、セントーン式のヒップドロップをミステリオ・レオパルドの鳩尾へと落とす。

「ぐげぇ!」

 これでミステリオ・レオパルドの動きが止まった。腹部を押さえ、必死に吐き気を堪えるミステリオ・レオパルドを、彩萌が冷たく見下ろす。

「貴方程度に使うのは勿体ないけど・・・」

 ミステリオ・レオパルドを強引に立たせ、両腕を背後に捩じ上げたまま、コーナーポストまで連れて行く。彩萌はそのままポスト上段まで登ると、観客席へとウインクを送る。

「それじゃ皆、行くわよ☆」

 ポストを蹴った彩萌が、重力に引かれてキャンパスへと向かう。そのヒップが、ミステリオ・レオパルドの後頭部に当てられていた。

「そーーーれっ!」

 リングに衝突音が響いた。ミステリオ・レオパルドの両腕は背後で極められているため、受身を取ることもできなかった。頭部はリングと彩萌のヒップでサンドイッチされている。

 彩萌のフェイバリットホールド・<ピーチヒップ・ギロチン>だった。その破壊力は、ミステリオ・レオパルドがぴくりとも動かないことでわかる。

 ミステリオ・レオパルドの体をひっくり返した彩萌はその胸板に腰掛け、足を組む。そのままの姿勢でカウントを待つ。

「ワン、ツー・・・スリーッ!」

<カンカンカン!>

 勝利のゴングが鳴らされ、彩萌は髪を掻き上げてふわりと立ち上がった。

「あ、レフェリーさん」

「うん?」

 遅れて立ち上がったレフェリーが、彩萌へ振り向く。その眼前に、美尻が迫っていた。

「ぐおぷへっ!?」

 彩萌のジャンピングヒップアタックを受けたレフェリーは、どこか嬉しげな声を上げてリングに倒れ込んだ。

「私の身体に触った罰よ☆」

 余裕の笑みを見せた彩萌は、ヒップを軽くはたき、リングを後にした。

 サービスなのか無意識なのか、ヒップを左右に振りながら退場していく彩萌に、観客席から大きな歓声が送られていた。



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