【第百七話 朱花紫檀:十手術 其の二】

 犠牲者の名は「朱花(あけばな)紫檀(したん)」。18歳。身長163cm、B85(Dカップ)・W61・H92。長い黒髪と切れ長の目が特徴的で、ボリュームのある前髪を纏め、残りは縛って後ろに垂らしている。何故かはわからないが、どこか男の嗜虐心をそそる雰囲気を発している。

 前回<地下闘艶場>に参戦した際に原塚(はらつか)和泉(いずみ)と対戦し、惜しくも敗北を喫した。契約のために試合後辱めを受けたというのに、紫檀は再度の<地下闘艶場>の参戦要請を受け入れた。


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 ガウン姿の紫檀が花道に登場した途端、会場が嗜虐的な空気へと変わる。紫檀本人にその気はないのだろうが、何故か紫檀には男の暗い部分を刺激するものがあった。その空気のままに普段よりも尚強い野次や指笛が飛ばされる。紫檀は下を向いたまま、足早でリングへと急いだ。


「赤コーナー、『手妻師』、ケルヴィン・百会!」

 紫檀の相手は、<地下闘艶場>初登場となるケルヴィン・百会(ひゃくえ)だった。髪を突っ立てたケルヴィンは口元のみを覆うマスクを着け、鋭い視線で紫檀を見遣る。その両腕には炎を模した刺青が所狭しと入れられていた。

「青コーナー、『ヴァーミリオン』、朱花紫檀!」

 自分の名前がコールされ、紫檀はガウンを脱ぐ。紫檀が身に着けていたのは前回と同じ着流しだった。否、前回とは違い、丈が膝上までカットされている。そのため紫檀の白い太ももが半ば見えてしまっている。太ももを気にする紫檀に、またも盛大な野次が飛んだ。


 にやにやと笑うレフェリーが紫檀の前に立つ。

「わかってるな、ボディチェックだ」

 レフェリーは紫檀の両胸をつつくと、わざと確認を取る。

「・・・はい」

 こくりと頷いた紫檀にレフェリーが近寄り、両胸を揉み始める。

「気持ち良くなってしまったら声を出してもいいからな」

「・・・」

 レフェリーの下品な冗談だったが、紫檀は何も返さない。

 襟の間からレフェリーの右手が侵入する。そのまま紫檀の胸の膨らみを掴み、ゆっくりと揉み込んでくる。

「ボディチェックもファイトマネーの内だ。諦めて身を任せてろよ」

「・・・」

 レフェリーの言葉通り、紫檀はすべてを諦めたかのように抵抗しない。それでも表情は強張り、決して望んだセクハラではないことがわかる。

「どれ、ここには何も隠していないかな?」

「っ!」

 レフェリーの指が、ブラの中にまで侵入してくる。それだけでは終わらず、左乳首を撫でてくる。

「おや、何か突起があるな。隠し武器だな?」

「いえ・・・違います・・・」

「それじゃ、これは何かな?」

 レフェリーは乳首への悪戯を続けながら、わざと紫檀に確認してくる。

「それは・・・私の、乳首・・・です・・・」

「本当かな? それじゃ、本物かどうか、しっかりと調べないとな」

 レフェリーの指が、乳首を上下から挟み、転がしてくる。観客からは乳首まで見えないものの、紫檀が頬を染め、時折身体をびくつかせる様子に興奮の野次を送る。

「うん、硬くなってきた。本物の乳首のようだな」

 レフェリーは紫檀の左乳首に振動を加えると、ようやくブラから指を抜く。しかし、襟から手を抜くことはせず、そのまま胸揉みを続行する。

「ここも一緒に調べるか」

 レフェリーの左手が太ももを撫でてから、秘部を弄り始める。勿論胸は揉みながらだ。紫檀はレフェリーから顔を背け、必死にセクハラを耐える。

「朱花選手、触られるのが嫌なら、直接見せてくれても良いんだぞ?」

「い、いいえ・・・嫌と言うわけでは・・・んんっ」

 本心では嫌に決まっている。しかし、直接恥ずかしいところを見られるよりも、まだ触られるほうがまし、というだけだ。

「そうか、朱花選手がそう言うなら、しっかりとボディチェックを行うとするか」

 言質を取ったレフェリーは、更に胸を揉み、衣装の上から乳首をつつき、腹部を撫で、尻を叩き、太ももを触り、秘部を弄る。

 時折びくりと身体を震わせながらも、紫檀は唇を結んでセクハラを耐え続けた。


「よし、余計なものは隠してないようだな」

 長時間のボディチェックを切り上げ、ようやく紫檀から離れたレフェリーが、リング下に合図を送る。


<カーン!>


 ゴングが鳴らされると、ケルヴィンはどこから取り出したのか刃が落とされた苦無を構える。紫檀はケルヴィンがボディチェックを受けていないことに気づいたが、今はどうでもいいことだと意識から追いやる。右手で十手を持ち、ケルヴィンへと突きつける。

 十手の先を揺らして細かいフェイントを入れながら、攻め込む機を窺う。

(・・・隙がない)

 リーチでは苦無より十手のほうが勝っている。それなのに、ケルヴィンの構える苦無の威圧感に前へと出られない。

「でも・・・」

 前に出なければ、勝てるものも勝てない。息を静かに吸った紫檀は、フェイントからの突きを放った。ケルヴィンの喉を襲った突きは、苦無で軌道を変えられた。ケルヴィンはそのまま苦無を振り抜く。

「えっ!」

 刃を落としているというのに、苦無の一閃で着流しが切れていた。胸元がぱくりと斜めに開くが、肌にはまったく傷がついていない。偶々ではなく、ケルヴィンの技量の高さ故だろう。

 観客の視線が露わとなった胸元に集中するが、紫檀は隠そうともせず、十手を構え直す。

(突きが駄目なら!)

 突きのフェイントから、横殴りの一撃。しかしケルヴィンの服すれすれを掠めて外れる。完璧に見切られたことに愕然とする間もなく、苦無の一閃に帯が半ばまで切られる。

「っ!」

 反射的に飛び退く。否、飛び退いたと思ったのに、ケルヴィンがぴたりと付いてきていた。同じ箇所を切られ、帯が落ちる。

「あっ」

 帯の押さえがなくなったことで、着流しの前が開きかかる。左手で前を押さえながら、十手をケルヴィンに向ける。その程度では完全に隠せず、胸の谷間どころか紫のブラも覗く。

 ケルヴィンは苦無を右に左にと動かし、持ち手を変えたりと攻め手を悟らせない。

「ふっ!」

 ならばと、紫檀は上段から振りかぶると見せかけ、腰の回転で引いた十手を突き出す。ケルヴィンの喉元を捉えた筈の一撃は空を切り、低い姿勢のまま間合いを詰めていたケルヴィンが苦無を一閃する。

「あっ!」

 その一撃で、ブラの繋ぎ目だけが斬られていた。ブラのカップの繋ぎ目が断たれたことで、胸の谷間が一層露わになる。紫檀は胸元を押さえ、距離を取ろうとする。しかしケルヴィンが遅れることなく体を寄せてくる。更にブラを切り刻もうとでもいうのか、またも苦無を振るう。

「っ!」

 その苦無の軌道上に、紫檀の十手が待ち構えていた。紫檀が十手を逆手に握っていたのだ。

(取った!)

 十手の鈎部分で苦無を受け止めた瞬間に手首を捻り、苦無を奪う。

(よし、これで・・・)

 その瞬間、腹部で衝撃が弾けた。即座に苦無を手放したケルヴィンが、掌底を叩き込んでいたのだ。紫檀が倒れ込む前に、宙にある苦無を見事に掴む。

「う・・・がはっ・・・」

 紫檀の腹腔内を痛みが暴れ回っていた。のた打ち回ることすら苦しく、足裏でキャンパスを蹴ることで誤魔化すくらいしかできない。

「う・・・あああーーーっ!」

 紫檀が叫んだ。

「負けられ・・・ない・・・!」

 意識を失ってもおかしくないほどの衝撃だったのに、紫檀は歯を食い縛り、立ち上がり、十手を構える。しかしその膝は震え、十手もようやく保持しているだけだ。

「ああああっ!」

 紫檀が咆える。その呼気で勢いをつけ、横殴りに十手を振るう。その十手がケルヴィンに届く前に、顎の先端を打ち抜かれていた。脳が揺らされ、脳からの指令が途切れ、体への命令も止まった。

 紫檀の執念も、ケルヴィンの一撃が刈り取った。リングに倒れ伏した紫檀の姿に、即座にゴングが鳴らされる。


<カンカンカン!>


 ゴングを聞いたケルヴィンはもう用はないとばかりにさっさとリングを下り、花道を下がっていった。

「・・・さて、と」

 一度唇を舐めたレフェリーは、紫檀を仰向かせ、和服の合わせ目から零れた乳房を揉み始める。

「こいつはどんなに苛めてもまた苛めたくなっちまうな。きっと無意識にドM体質なんだろうな。厭らしい奴だ」

 勝手なことを言いつつ乳房を揉み続ける。

 やがて、レフェリーの揉み込みに反応したのか乳首が硬度を増す。

「気絶してても乳首は立つんだな」

 それに気づいたレフェリーは、乳首を弄りながら乳房も揉み続ける。

 やがて、紫檀の瞼が薄っすらと開く。

「気がついたか?」

「・・・あっ」

 紫檀は慌ててレフェリーの手を払い、乳房を隠す。

「自分が負けたのはわかってるな?」

「・・・」

「ということで、契約通りに罰ゲームを受けてもらうぞ」

 罰ゲーム、という響きに紫檀がびくりと肩を震わせる。

「さて、まずは立ってもらおうか?」

 レフェリーの命令に、紫檀はまだダメージの残る身体を震わせながら立ち上がろうとする。

「あっ」

 しかしふらつき、倒れかける。

「おっと」

 そこをレフェリーが支える。否、乳房を掴み、揉みながら倒れないようにする。

「やれやれ、手助けが必要だな」

 そう嘯いたレフェリーは、紫檀の背後に回り、紫檀の乳房を改めて揉み始める。

「お前も馬鹿な奴だな、もう辞めた道場の門下生を庇うためにこんな目に遭おうっていうんだからな」

 背後から紫檀の乳房を揉みながら、レフェリーが耳元に囁く。

「いや・・・もしかしてそれは言い訳で、こうやって恥ずかしい目に遭っている姿を皆に見てもらいたいのか?」

「ち、違う!」

 これには明確に否定の言葉を口にする。

「違う? その割にはここが硬くなってるぞ」

 レフェリーの指が乳首を摘む。

「そんな・・・」

 レフェリーの指によって、自らの感触もわからせられる。

「素直になれよ、こうしてもらうのが好きなんだろう?」

「違います、私は・・・」

 後の言葉は飲み込み、俯く。

「なんだ、どうした? 続きの言葉は?」

 紫檀が黙り込んでしまったのを良いことに、レフェリーはひたすら乳房を揉み続ける。親指と人差し指でしこり立った乳首を挟み、擦り責めを行いながら残りの指で乳房を搾るようにしていたぶる。

 この屈辱の乳責めを、紫檀はただ耐えるしかなかった。


 何分間胸責めを受けていただろうか。ようやくレフェリーが乳房から手を放し、紫檀の正面に回り込む。紫檀は着物の合わせ目を閉じ、肌を晒すまいとする。

「さあ、これからが本番だ」

 信じられないレフェリーの言葉に、紫檀は身を強張らせる。散々セクハラを受けたのに、まだ始まってもいなかったとは。

「脱げ」

「・・・えっ?」

 端的に命じられ、思わず聞き返す。

「脱げと言ったんだ、さっさと脱げ」

「・・・はい」

 紫檀は着流しを肩から滑らせ、肌を晒す。切られて役に立たなくなったブラも外した。

「・・・脱ぎました」

 両手で乳房を隠し、レフェリーを見やる。しかし、返ってきたのは冷たい言葉だった。

「あと一枚だな」

「そんな・・・」

 セクハラも受けた。乳房も晒した。それなのに、まだ恥を掻かせようと言うのか。

「も、もう・・・」

「何を泣き言言ってるんだ? 今日は全部脱ぐんだよ! すっぽんぽんになりな!」

 レフェリーの怒声に身を竦めた紫檀は俯く。曲げた人差し指を軽く噛んでいたが、やがてその手を下ろす。そのまま紫色のパンティを掴んだ。

 紫檀の震える手が、ゆっくりとではあるがパンティを下ろしていく。膝を過ぎると、パンティはそのままキャンパスに落ちた。一糸纏わぬ姿となった紫檀は、右手で乳房を、左手で秘部を隠す。

「おいおい、全部脱いだら今度は見せなきゃいけないぞ」

 紫檀のストリップショーをにやつきながら見ていたレフェリーが指示を出す。

「お願いします、今日はこれくらいで・・・」

「駄目に決まってるだろうが」

 紫檀の哀願にも、レフェリーはまるで取り合わない。一度しゃがむと紫檀の脱ぎたてのパンティを拾い、リング下の黒服に渡す。振り返って紫檀の姿勢が変わってないことに気づくと、少し口調を強くする。

「いつまで隠してるんだ? ほれ、両手を後ろに回して胸を張りな」

「も、もう勘弁してください、これ以上は・・・!」

 全裸になった女性が体を隠そうとするのは当然だろう。しかし、レフェリーがそれを許す筈もなかった。

「なんだ、無理やり大股広げさせられたいのか?」

 唇を噛んだ紫檀は、震える両手をぐっと握り、自分の背後に回す。瞼は伏せられ、頬は赤く染まっている。美女の全裸姿に、観客席からは欲望に満ちた視線と卑猥な野次が飛ばされる。

「まったく、無駄な時間を取らせやがって」

 鼻を鳴らしたレフェリーは、紫檀の背後に回り込む。その手が前に回り、背中越しに乳房を揉み始める。

「観客の皆さんに謝るんだ、『今日は不甲斐ない試合をして申し訳ありませんでした』と言ってな」

 手を動かしたまま、紫檀に命令する。息を飲んだ紫檀は、それでも唇を開く。

「きょ、今日は・・・んっ、不甲斐ない試合をして、も、申し訳、ありませ・・・んんっ!」

「どうした、そんな小声じゃ聞こえないぞ?」

 背後から乳房を揉みながら、レフェリーが嘲る。

「今日は・・・っ! ふ、不甲斐ない試合を・・・んっ、して、もうし・・・わけありま、せん・・・っ!」

「おいおい、そんな吐息混じりの謝罪じゃお客さんに届かないぞ?」

 そう言うレフェリーの手は激しく動き、乳房を揉みくちゃにし、乳首を上下に揺らす。紫檀がまともに言葉を発せられないように、わざと強く責めているのだろう。

「そら、ちゃんと言わないと終わらすことはできないぞ」

(酷い・・・!)

 レフェリーが言葉でも紫檀を嬲ってくることに、悔しさが込み上げる。だが、悔しくても紫檀は屈辱的な挨拶をするために口を開く。

「今日、はっ・・・不甲斐ない試合を・・・はぁ、くっ・・・して、申し訳あり・・・んんっ! ませんでした・・・ああっ!」

「おいおい、全然言えてないじゃないか」

 紫檀は元々喋るほうではない。レフェリーのセクハラと羞恥が、紫檀の口から更に滑らかさを奪っていた。何度も言おうとするものの、そのたびにレフェリーから乳房を捏ね回され、乳首を強く扱かれ、乳房を揺らされ、乳首を弄られ、悉く邪魔される。

「おいおい、そんなんじゃいつまで経っても終わらないぞ」

「ううぅ・・・っ」

 荒い息を無理やり飲み込んだ紫檀は、震える唇を開く。

「今日は不甲斐ない試合、を・・・して、申し訳ありませんでした・・・」

 途中つっかえたものの、それでも紫檀はなんとかレフェリーから言われた言葉を口にすることができた。

 しかし。

「時間が掛かり過ぎだ。これじゃまだ終われんよ」

「えっ・・・」

 ようやく謝罪の言葉を言い終わったというのに、レフェリーは尚も紫檀を許そうとはしなかった。

「それじゃ、これを言ったら最後にしてやろう」

 乳房責めを延々と続けながら、レフェリーが紫檀の耳元に囁く。

「・・・そら、今言った通りに言え」

 その内容のあまりの恥ずかしさに、紫檀の表情が歪む。

「そんな・・・そんなこと、言えない・・・あぅんっ!」

「言うんだよ。言えなきゃ契約違反になるぞ」

 乳首を弄りながら、レフェリーが語気を強める。息を止めた紫檀は、それでも口を開く。

「わ、私は・・・厭らしい私、は・・・皆さんの前で、乳首を立たせていますぅ! ああっ、あそこも・・・ぬ、濡らしていますっ!」

 無理やりとは言え、この恥ずかしい告白に、観客たちは大いに沸いた。

「許してください・・・もう、これで許してください!」

 紫檀の涙混じりの哀願に、ようやくレフェリーが乳房から手を放す。その途端、紫檀は膝から崩れるように座り込んだ。

「今回はそれでいいが、次回負けたときにはもっとサービスして貰うぞ」

 しゃがみ込んでそう言ったレフェリーが、最後に紫檀の尻を撫で、リングを後にする。

 暫く俯いて肩を震わしていた紫檀だったが、リングの上に散らばった衣装の残骸で身体を隠し、リングを下りた。

 花道を下がっていく際にも観客から口汚い野次が飛ばされ、紫檀は身を震わせたまま屈辱を耐え忍んでいた。



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