【第一話 栗原美緒:レスリング】

 犠牲者の名は「栗原美緒」。19歳。身長162cm、B85(Dカップ)・W63・H88。肩までのセミショートと切れ長の目が特徴的だ。その顔立ちは美少女と言っていいが、芸能人ではない。高校生の時にレスリングでインターハイを三連覇し、天才少女と呼ばれた。レスリングの才能に加え、その凛とした美貌で一躍アイドルとなり、マスコミにも大きく取り上げられたほどだ。現在は大学生だが、レスリングは引退している。それでもその実力は錆びついてはいない筈だ。
 彼女の資料と友達と談笑している写真を眺めながら、「御前」は静かに興奮していた。


 記念すべき<地下闘艶場>の第一戦。各界の著名人が裏のルートで続々と会場に集まる。場所は地下駐車場を持つ総合イベントホールを貸切にし、一般客が紛れ込まぬよう厳戒態勢が採られた。屋内球技場にリングが設置され、いよいよ<地下闘艶場>の初戦の幕が上がろうとしていた。


 選手が入場し、リングに上がった。今日の主役の栗原美緒と、対戦相手である蜘蛛をモチーフにしたマスクを被った男だった。
 「マスク・ド・タランチュラ」とコールされた男は身長180cm台半ば程だが、腕が異常に長い。自分の膝に余裕で届くほどの長さだ。美緒の全身を眺め回し、ニヤニヤと薄い笑みを浮かべている。
(こ、こんな格好で・・・)
 美緒は後悔していた。彼女の身に付けている衣装はレスリング用の青い水着に似ているが、ハイレグ仕様となっている。背部は背中からお尻まで見える丸いカットがされ、腹部には臍から下乳まで見えるような大きな穴が空けられている。スポットライトが美緒に浴びせられ、観客席からの粘つくような視線が美緒の全身を犯していく。
「出場するだけで三十万、勝てば百万のファイトマネーを用意しています」という条件を提示され、ブランクはあるが自分のレスリング技術を持ってすれば楽勝だ、と考えたのは甘かった。こんな衣装だとは知らなかったし、相手が男性だというのも聞かされていなかった。軽いバイト感覚で受けた自分を呪いたくなる。
「栗原選手、ボディチェックだ」
 厭らしく笑いながらレフェリーが近寄ってくる。プロレスである以上ボディチェックは必須で、契約書にもボディチェックを拒んではならないという項目があった。
「・・・わかったわ」
 嫌悪感を堪え、美緒は頷いた。
 レフェリーのボディチェックはシューズから始まり、太ももを撫でるように触られる。これ位はと唇を噛んで我慢する美緒だったが、レフェリーの手はそのまま上へと上り、バストを挟むように触ってきた。
「ちょっと!」
 さすがにその手を振り払う。
「すまんね、ちょっと手が滑ったのさ」
 レフェリーは悪びれずにそう言うと美緒のボディチェックを終え、マスク・ド・タランチュラのボディチェックは簡単に終える。
「それでは、ファイト!」

<カーン!>

 ゴングが鳴ると、バストを触られたことに苛立っていた美緒はマスク・ド・タランチュラを睨みつけた。
(こんな試合さっさと終わらせて、リングを降りる!)
 そう思った途端、バストを触られた。
「え?」
 充分に距離を取っていたのに、マスク・ド・タランチュラがその長い腕を伸ばしたのだ。下から掬うように触っておいて、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
(この距離でも届くなんて・・・)
 思わず胸を隠しながら腰が退けると、今度はお尻を触られてしまう。
「くっ!」
 こうなったら多少触られても気にせず、タックルに行く。そう決めてマスク・ド・タランチュラの動きに集中する。油断を誘うため、手で胸を隠したままのポーズで睨む。今度は股間に伸びてきた左手をかわし、マスク・ド・タランチュラの右側から高速タックルを決める。
(こんな奴に密着したくないし)
 そのままテイクダウンし、ジャパニーズレッグロールクラッチホールドへと流れるように繋ぐ。美緒の頭部から脚部までが美しい曲線を描き、マスク・ド・タランチュラを押さえ込む。見よう見まねのプロレス技をあっさり決めた美緒に、観客から驚きの声が上がる。しかし、なかなかカウントが始まらない。
「ちょっと、レフェリーカウント!」
 その時、マスク・ド・タランチュラが下から手を伸ばし、美緒の無防備なバストを掴んだ。
「きゃあっ!」
 思わず体勢を崩してしまい、上半身をマスク・ド・タランチュラにもたれ掛けるような格好になってしまう。もがく美緒だったが両方のバストを揉まれ、加えて両足が逆にフックされ、下半身を突き出すような格好になってしまう。胸を揉まれることだけでも止めようとマスク・ド・タランチュラの両手を押さえるが、そうすると両足を広げられてしまう。
「あっ!」
 思わず股間を隠そうとすると胸を責められる。レフェリーは美緒の足側に陣取り、股間を眺めながらギブアップの確認をしてくる。
「くっ・・・このっ!」
 肘を後ろに思い切り振ると、顔のどこかに入ったらしい。厭らしく動いていた手が体から離れ、両足のフックも外れて自由になる。回転して距離を取り立ち上がった美緒がマスク・ド・タランチュラを見ると、同じく回転して素早く立ち上がっている。
 と、マスク・ド・タランチュラがタックルの体勢であっという間に間合いを詰めている。美緒がタックルを切ろうと構えた瞬間、マスク・ド・タランチュラの姿が消える。
(え?)
 後ろから抱えられてバストを揉まれ、しかも耳を舐められることで初めて背後を取られたことに気づく。嫌悪感に一瞬身を竦めるが唇を噛んで堪え、マスク・ド・タランチュラの左腕を両手で引き剥がし、左腕を持ったまま腰の回転を使ってリングに投げ飛ばす。
 この投げに、さすがにマスク・ド・タランチュラも美緒から手を放していた。今度は美緒がバックをとって腰をクラッチし、そのままスープレックスで投げ捨てる。マスク・ド・タランチュラは頭を打ったらしく、後頭部を押さえて足をバタつかせている。体を自由に弄られた屈辱を思い出し、美緒の顔が紅潮する。
「・・・このぉっ!」
 思わずマスク・ド・タランチュラの顔面を蹴っていた。
「倒れている選手への打撃は禁止だ!」
 レフェリーが後ろから制止してくる。その両手はバストを掴み、あまつさえ揉んできた。
「な、ちょっと、放しなさいよ!」
「反則だぞ、栗原選手!」
 レフェリーは美緒を制止する言葉を並べながらもバストを放そうとせず、ひたすら揉み続ける。
「やめてよ! 嫌っ!」
 なんとかレフェリーを振り払ったものの、いつの間にか立ち上がったマスク・ド・タランチュラに捕まえられてコブラツイストに極められる。肩を極めた手が背中から回り込んで左のバストを揉んでおり、右手はお尻を撫で回している。レフェリーは右のバストに手を伸ばし、そのまま揉みながら白々しくギブアップかどうかを確認してくる。二人の男に両方のバストを揉まれ、お尻を撫で回され、それでも美緒は必死に耐える。
「顔面を蹴ってくるとはね。やり過ぎたな、お嬢ちゃん」
 マスク・ド・タランチュラが美緒の耳元で囁き、そのままグランドコブラツイストに移行する。マスク・ド・タランチュラの左手は美緒の右脇の下を通って肩をロックし、腕の長さを活かして美緒の両手も捕まえてしまう。更にマスク・ド・タランチュラは両足を美緒の両脚に絡め、大きく開脚させる。
「きゃああああぁぁぁぁぁ!」
 マスク・ド・タランチュラのフェイバリットホールド・<タランチュラホールド>だった。美緒の動きを完璧に封じたマスク・ド・タランチュラは、空いた右手でバストを揉み始める。
「放して! くっ、あうっ」
 美緒の要求を無視し、マスク・ド・タランチュラは美緒のバストを好き勝手に弄り回す。遂には水着の隙間に手を入れ、乳房を直接揉みだした。指でつまんだり押し込んだりして乳首にも刺激を与えている。
「そんな、イヤッ、やめてよっ! あぅっ」
 なんとか逃れようと焦る美緒だったが、四肢を拘束された状態ではそれも叶わない。乳房と乳首を弄っていたマスク・ド・タランチュラだったが、右手を水着から抜き、徐々に下げていった。鳩尾、臍を通り、下腹部を越えて秘部に達すると、そのまま筋に沿って刺激を与えていく。レフェリーも空いたバストを両手で好きなように弄くってくる。もはやギブアップの確認すらしない。
「あああぁぁぁ! い、いやあぁぁぁ!」
「いいねぇお嬢ちゃん、いい声だよ。俺も興奮してきちまった」
 美緒は自分のお尻の割れ目に、硬い物が当たる感触を感じた。
(え、これってもしかして!)
 何が当たっているのかを想像してしまい、動ける範囲で暴れる美緒だったが、まったく効果が無い。レフェリーは直接乳房を揉み、乳首を弄りだした。マスク・ド・タランチュラは美緒の耳を舐めながら、直接水着の中に手を入れ、秘部を触る。
「駄目、駄目駄目駄目だめぇぇぇーーーっ!」
 美緒の絶叫がリングに響き渡る。
「ぎ、ギブアップ、ギブアップよ! 負けでいいからもう止めて、お願いします・・・!」
 最後は涙を流しながらの哀願となる。レフェリーは名残惜しそうに乳房を揉んでいたが、試合終了の合図を出し、ゴングが打ち鳴らされる。

<カンカンカン!>

 ゴングが鳴らされると、マスク・ド・タランチュラは<タランチュラホールド>を解いた。離れ際に美緒のお尻を撫でて立ち上がる。
「お嬢ちゃん、今夜どうだい? 夜のファイトマネーなら百万払ってもいいぜ」
 バストと秘部を庇い涙を零しながら震える美緒に対し、下品な冗談を投げる。美緒に刺すような視線で睨まれると、肩を竦めて退場していった。
「う、うう、うううぅぅぅ・・・!」
 その後ろ姿を睨みながら、美緒は必死に泣き声を堪えた。
 美緒は暫く蹲った姿勢でいたが、ふらりと立ち上がって控え室へと戻っていった。その美緒へ観客から下卑た声援が掛けられる。唇を噛み締め、下を向いて歩いた。

「今日のファイトマネーです。負けたので三十万のお支払いになりますが、今回は色をつけて五十万を入れております。次の対戦も期待しております」
 サングラスを掛けた担当者が美緒に封筒を渡しながら事務的に告げ、深々と礼をした後、控え室を出て行く。
(・・・このままじゃ終われない。これだけの屈辱、忘れられない・・・!)
 封筒を強く握り締め、美緒は雪辱を誓った。

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