【第九十八話 ステファニー・クレイトン:プロレス 其の三】

 犠牲者の名は「ステファニー・クレイトン」。17歳。身長170cm、B92(Fカップ)・W61・H93。眩い金髪に伸びやかな手足、笑顔が魅力的なアメリカ人。友人たちからは「ステフ」と呼ばれている。祖母が日本人のため、日本語も問題なく話せるバイリンガル。白い肌に金髪と白人特有の容姿だが、オリエンタルな雰囲気も感じさせる稀有な美貌。
 現在は来狐遥の通う高校の留学生。アメリカのメジャープロレス団体「WUP」でディーヴァになることを夢見ており、遥の誘いに自ら望んでプロレス同好会へと所属している。
 過去にシングルマッチとタッグマッチで一度ずつリングに上がっている。三度目となる今回も、将来の夢へのステップだと捉え、ステフは出場を決めた。


 花道を走って入場してきたステフには、二通りの反応が待っていた。初めてステフを見る者からは卑猥な野次が、初参戦時の試合を知っている者からは恐怖の視線が飛ばされる。
 様々な観客の反応にも手を振って応え、ステフはリングへと駆け上がった。

「赤コーナー、『チャラ系レスラー』、午上ツィグ!」
 ステフの相手は、初登場となる午上(うまがみ)ツィグ、本名午上忠継(ただつぐ)だった。茶髪に染めた髪にふわりとブローをかけ、目元だけを覆うマスクを着けている。着ている衣装もレスラーと言うより、フラメンコダンサーと言ったほうがしっくりくる。
「青コーナー、『ブロンドのオリエンタルガール』、ステファニー・クレイトン!」
 コールを受け、ステフはガウンを脱ぐ。ステフが身に着けていたのは、星条旗がプリントされたレオタードだった。レオタードはステフの肢体にぴたりと張りつき、Fカップのバスト、引き締まったウエスト、張り出したヒップだけでなく、肩紐付きのブラ、パンティのラインを浮かび上がらせている。
 メリハリのあるステフのプロポーションに、観客席から更に歓声や野次が起こる。ステフは恥ずかしさを堪え、手を振って応えて見せた。

「さ、ステファニー選手もボディチェックを受けて貰おうか」
「Sexual−harassmentはお断りデス!」
 午上のボディチェックを終えたレフェリーがステフにも行おうとするが、ステフは当然それを拒む。
「だが、ボディチェックはルールで決まって・・・ってなんだ午上」
 ステフに詰め寄ろうとしたレフェリーを止めたのは、なんと午上だった。
「ちょいちょいちょい! レフェリーさん、女の子が嫌がることやったら、ノンノノン!」
 午上は人差し指で×印を作り、首を振る。
「選手がレフェリーに指示するな!」
「指示じゃないです意見ですぅ」
 このふざけた遣り取りに、観客席からブーイングが上がる。
「ありゃりゃ?」
「ほれみろ、お客さんもセクハ・・・ごほん、ボディチェックを望んでるんだ。邪魔をするな」
「ちょいタンマ。それなら、こういうのはいかがっすかぁ?」
 午上はレフェリーの耳に口を近づけ、小声で何かを伝える。
「・・・できるんだろうな、本当に」
「お任せあれ〜。張り切っちゃいますよ!」
「わかった、信じるぞ」
 頷いたレフェリーは、試合開始の合図を出した。

<カーン!>

 ゴングを聞いた午上は、軽い足取りでステフへと近寄る。
「ステフちゃん。今日は宜しくど〜もで〜す!」
 午上は左手を差し出し、伸ばした右手の人差し指と中指で軽い敬礼を送る。
「あ、ハイ、宜しくお願いシマス」
 ステフは素直に握手に応じる。
「ごめんしてねステフちゃん!」
 午上が握ったのはステフの左手ではなく、左手首だった。と、手首を握られた瞬間、ステフは重心を崩されていた。
「Ouch!」
 手首を極められながら投げを打たれたことで、ステフはリングに仰向けにされていた。
「マウントポジション、ゲットで〜す!」
 午上は親指と人差し指だけを伸ばした拳銃ポーズを作り、両手でステフを指差す。
「これくらい、返しマス!」
 海老反りながらブリッジを作ったステフだったが、午上は見事にバランスを取り、ステフの腹の上に座っていた。
「ロデオタイム、スッタート!」
 伸ばした人差し指を頭上で回すと、自らの腰をグラインドさせる。
「ひやヤや!」
 午上が腰を揺することで、衣装越しではあるが午上の股間の感触がお腹に伝わる。思わず力が抜け、ブリッジが崩れる。
「ほい、捕まえた。レフェリー、出番で〜す」
 素早くステフの手首を捕らえた午上がレフェリーを呼ぶ。
「やるな、言ったとおりじゃないか」
「当然じゃないっすか! 頼りになる男ですよ僕ちんは」
 ステフの両手首を持ったまま、午上が胸を張る。
「よし、それじゃあ改めてボディチェックを行うとしようか」
 跪いたレフェリーは、横になっても盛り上がったままのステフのFカップバストをつつく。
「だからそれは、Sexual−harassmentデス!」
「ボディチェックだって言ってるだろう? こっちも仕事だからな、おとなしくしているんだ」
 当然つつくだけでは終わらず、レフェリーはステフのバストを鷲掴みにする。
「相変わらず中身が詰まってるじゃないか。揉み応えが堪らんな」
「よ、余計なこと言ってないデ、離してくだサイ!」
 身を捩るステフだったが、それだけではマウントポジションを脱出できず、レフェリーからいいようにバストを揉まれてしまう。
(仕方ないデス、我慢してから・・・!)
 自分に与えられる刺激を黙殺し、一気にブリッジ状態へと持っていく。
「うおっとぉ!?」
 突然のことに午上もバランスを崩す。それを見逃さず、ステフはブリッジを解きながら身を捩り、ようやくマウントポジションを脱出する。
「ヒュ〜、ステフちゃん、やる〜」
 ステフに逃げられたというのに、午上は伸ばした両手の人差し指をステフに向ける。
「なに偉そうに言ってるんだ、もう一回捕まえろ。まだボディチェックの途中だ」
「ノンノン、次は僕ちんのお楽しみタイムなんで。メンゴで〜す」
 レフェリーの命令をあっさりと断り、午上は指の関節を鳴らす。
「おい午上!」
 レフェリーの怒りの声も聞き流し、軽く跳ねながら距離を詰める。
「行くよステフちゃん! あ、でもイクときは一緒がいいか・・・」
 つまらない冗談を言いきる前に、ステフのドロップキックが午上の胸板を捉える。まともに食らった午上だったが、綺麗な後転から立ち上がる。
「貴方、巧いですネ」
 ステフが素直に感心する。午上はステフのドロップキックの威力を殺すため、自ら転がりしかも距離を取ったのだ。
「こいつはど〜もサンキューで〜す!」
 ステフの称賛に、午上も軽い挨拶で返す。
「でも、僕ちんもそろそろお楽しみしたいので・・・ちょっち本気出しちゃいますよ〜。イッツァショウタイム!」
 本物のフラメンコ宜しく顔の横で手を打ち鳴らした午上が、独特なステップを踏み始める。
「ちゃっちゃらちゃっちゃっ、ちゃっちゃらちゃっちゃっ、ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃ」
 口でリズムを刻みながら、細かく眩惑的なステップを踏む。
「オーレイ!」
「っ!?」
 気づけば午上のタックルに両脚を刈られていた。まずい、と思ったときにはリングに落とされ、腕を取られる。
「くっ!」
 身を捩ったことで、尚更追い込まれた。
 うつ伏せの状態で両腕を後方に回され、午上の左脚に挟まれている。背中に乗られているため身動きもできない。
「それじゃ、この魅力的なヒップを撫で撫でしちゃいま〜す!」
 そう宣言した午上は、大きな丸みを帯びたステフのヒップを撫でる。
「う〜ん、安産型。おっきなお尻、OKで〜す!」
 撫で回すだけでは終わらず、午上はステフのヒップを揉み、軽く叩いたりする。
「アッ、このっ!」
 止めさせようと足をバタつかせるが、たいした抵抗にはならない。
「おい、その体勢だと俺が何もできないだろ」
 おあずけを食っているレフェリーが午上に文句を言う。
「おっとサーセン。でも、下手に動くとステフちゃんが逃げちゃうんで。メンゴで〜す」
 そう言いながらも午上の手は動きを止めず、ヒップの上を這いずり回る。
「やっ、そんナ、お尻ばっかり触って・・・!」
 ステフが逃げようとしても身をくねらせることしかできず、ヒップを振る結果になって逆に午上の興奮を誘う。
「お尻だけじゃ物足りない? それじゃ、こんなとこまで調べちゃいま〜す!」
 午上の手が更に進み、秘裂をねっとりと撫でる。
「ひゃいっ!」
 恥ずかしく敏感な場所に触れられ、ステフが奇妙な声を上げる。
「う〜ん、声も可愛い! ステフちゃん、グッドで〜す!」
 満足気に頷いた午上は、更に厭らしく責め始める。
「なあ午上、そろそろ俺にも」
「ノンノン、まだ僕ちんがお触りタイム中で〜す」
 レフェリーのほうを見もせずに片手で追い払う仕草をし、すぐにステフの秘部を撫で回す。
「ん〜、ステフちゃんのここ、あったかくて柔らかくて、あったか柔らかでサイコーでーす!」
 意味のないことを叫び、午上は一人悦に入る。しかし黙って見ているだけのレフェリーには不満だけしか貯まらない。
「おい午上!」
 レフェリーの怒声に、午上は顔を顰め、耳を塞ぐ。
「ん〜、しょうがない。アゲアゲで行きまショウタイム!」
 ステフを捕らえたまま午上が後転する。既に極めていた両腕に加え顎と太ももも押さえたことで、ステフは身動きを封じられる。
「おっぱいを突き出すようにしてるから、もっと大きく見えるじゃないか」
 ステフの胸元をじっくりと眺めていたレフェリーだったが、我慢できなくって鷲掴みにする。
「やっぱりいい感触だな、ステフ選手のおっぱいは」
「いやっ、触らないデくだサイ!」
 なんとかレフェリーの手から逃れようと体を揺するが、がっちりと極まった関節技の所為でほとんど動かない。
「なんだ、俺の手におっぱいを擦りつけてきて。もっと揉んで欲しいっていう催促か?」
「そんなわけないでショウ!」
 ステフが怒りをぶつけても、レフェリーは取り合わずにバストを揉み続ける。
「レフェリー、僕ちんもそろそろステフちゃんのおっぱいタッチしたいんすけど」
「まあ待て、もう少ししたら変わってやるから」
 午上の要求も受け流し、レフェリーはひたすらステフのバストを揉み回す。
「ここはどうだ? そろそろ感じてきたんじゃないか?」
 生地の薄いレオタードの上から秘部を撫で回し、レフェリーが下卑た笑みを浮かべる。
「誰が、そんナ・・・」
 否定しようとしたステフが突然黙り込んだ。
「・・・?」
 ステフの視界に赤いものが映る。それは、ステフ本人の血だった。午上がステフごと回転したときに、擦れて浅い傷ができていたのだろう。僅かずつ滲んだ血が、垂れるほどに溜まったのだ。
「血・・・赤い、私の血・・・My crimson blood!」
 流れる血を知覚した瞬間、ステフの世界が暗転した。

「WRYIIIAAA!」

 咆哮と共に、ステフの全身の筋肉が膨張する。
「うええ? マジすか、ウソでしょ!?」
 両足をキャンパスにつけ、そこを支点にしたステフは、午上をぶら下げたまま立ち上がっていた。

「GYIIIAAA!」

 そのまま午上をぶん投げようとしたが、僅かに早く技を解いた午上が逃れていた。
「お、お前の責任だ! ど、ど、どうにかしろ!」
「できるわけないっしょあんな怪物!」
 以前病院送りにされたレフェリーがそのときの恐怖を思い出して午上を責めるが、午上も、あんな無茶苦茶な技の解き方をするステフをまともに相手できるとは思えなかった。
「それじゃレフェリー、お先で〜す!」
「あ、待て午上! ずるいぞ!」
 真っ先に逃げ出した午上を追い、レフェリーも慌ててリングを転げ落ちる。

<カンカンカン!>

 男性選手だけでなくレフェリーまで逃亡したリングに、試合終了のゴングが響く。尚も暴れ回るステフを取り押さえるため、幾人もの黒服がリングに上がり、まるでリング上は捕り物の現場のようだった。


第九十七話へ   目次へ   第九十九話へ

TOPへ
inserted by FC2 system