【特別試合 其の二十八 先場アイリ:ボクシング】  紹介者:エスプレッソ様

 犠牲者の名は「先場(さきば)アイリ」。24歳。身長164cm。B87(Dカップ)・W61・H88。
 肩まではいかないふわりとしたブラウンのショートボブ。眼鏡をかけ、子犬のようなおどおどした雰囲気を持つ日系アメリカ人。奏星社の秘書課に勤務しており、不思議と同性にも好かれている。休日にはジムでボクササイズを行い、汗を流している。
 アイリが<地下闘艶場>に参戦した理由。そこには裏の事情が存在していた。


 リング上には、既に対戦する両選手が揃っていた。ガウン姿のアイリに対するのは、染めた髪をチャラく決めている男だった。
「赤コーナー、『ヘタレキング』、早矢仕杜丸!」
 リングで手を振る早矢仕(はやし)杜丸(とまる)に対し、容赦ないブーイングが飛ぶ。
「青コーナー、『ハーフ秘書』、先場アイリ!」
 コールを受けたアイリは、おずおずとガウンを脱ぐ。その下にあったのは、濃い青と水色のストライプ柄ビキニの上下に同じ柄のキャミソール、それにベージュのフィットパンツという四点タンキニだった。観客席から飛んでくる視線が嫌なのか、アイリは体を庇った。

「よし、それじゃボディチェックを受けて貰おうか」
 早矢仕のボディチェックをさっさと終えたレフェリーが、アイリに告げる。
「は、はい・・・」
 アイリが頷いた途端、レフェリーはキャミソールの上からバストを掴んだ。
「なんだ、聞いてたよりボリュームあるおっぱいじゃないか」
「きゃん! や、やめてくださいぃ」
 身を捩るアイリだったが、レフェリーの手から逃れられない。
「やめてと言われても、これはボディチェックだからな」
 にやにやと笑いながら、レフェリーはバストを揉み続ける。
「お、こっちもぱっつんぱっつんじゃないか」
 ヒップにも手を伸ばしたレフェリーは、その感触ににやける。
「だ、駄目ですよぉ」
 レフェリーの手を外そうとするアイリだが、その力は弱く、レフェリーはアイリのバストとヒップの感触を堪能する。
「おっぱいもヒップもいいじゃないか、それじゃ、ここはどうだ?」
 レフェリーの手が、なんと股間にまで伸ばされる。
「あ、だ、駄目ですってばぁ!」
 その手を両手で押し留めたアイリだったが、レフェリーの逆の手が秘部へと届く。
「きゃん!」
「ここも隠し場所の一つだからな、しっかりと調べないといけないんだ」
 レフェリーの左手が衣装の上からとは言え、秘部で蠢く。アイリは泣きそうな顔でレフェリーの手を引き剥がそうとするが、力不足のためかそれができない。
 アイリにとって羞恥の時間が過ぎ、ようやくレフェリーが離れる。
「よし、何も隠してないようだな」
 アイリから離れたレフェリーは、試合開始の合図を出した。

<カーン!>

「えへへ、アイリちゃん相手なら楽しめそうだな」
 アイリの身体を上から下まで眺め回した早矢仕は一人頷く。
「やだ、寄らないでください」
 アイリのジャブはまるでスピードがなく、早矢仕に簡単にかわされる。
「チャーンス!」
 ジャブを避けた早矢仕はアイリに抱きつき、そのままバストを揉み始める。
「や、やめてくださいぃ」
 アイリも早矢仕を引き離そうとするが、非力なためか引き離せない。
「ほらほら、逃げないとおっぱい揉み放題だよ?」
「あうぅ、そんなの、無理です・・・」
「それじゃ、おっぱい揉み揉みタイムが続くよ〜」
「あん、駄目ですよぉ」
 アイリは早矢仕から逃れられず、衣装の上からとは言えバストを揉み続けられる。
「おっぱいの感触はわかったから、次はこっちを・・・」
 早矢仕がバストから手を離し、秘部へと手を伸ばす。
「もう、やめてくださいっ!」
 その隙を衝き、早矢仕を思い切り突き飛ばしたアイリは、そのままロープ際まで逃げ出す。
「逃がさないよアイリちゃん!」
 アイリを捕まえようと、早矢仕が飛びかかる。
 その瞬間、アイリの目が光った、ように見えた。真っ直ぐ突き出された右拳は顎を捉え、早矢仕の突進に見事なカウンターとなっていた。無様に崩れ落ちた早矢仕に近寄ったレフェリーは、慌てて両手を交差させる。

<カンカンカン!>

「やったぁ、勝てました〜」
 ほっと息を吐いたアイリは、リングを降りて花道を下がる。レフェリーが口を挟めないタイミングの良さだった。
 足取りも軽いアイリの前に、数名の黒服を従えた銀髪の女性が立ち塞がる。
「まだ帰るのは早いんじゃないのか?」
 小首を傾げる女性は、「御前」の側近であるナスターシャ・ウォレンスキーだった。想定外の人物の登場に、会場がざわめく。
「な、なんですか貴女たち、恐いですよ」
 肩を抱いて震えるアイリを、ナスターシャが冷たく見据える。
「もう芝居はやめたらどうだ? 臭い芝居をな」
「な、何を言ってるのかわかんない、んですけど・・・」
「なんだ、全部説明して欲しいのか? プロフィールを偽り、奏星社に入社。その目的は違法な情報収集・・・」
 そこで一度言葉を切ったナスターシャの口の端が、くっと上がる。
「そうだろう? 先場アイリ。いや・・・鍔崎フィリア」
 ナスターシャの笑みに、アイリ、否、フィリアの顔が強張る。

 そう。先場アイリとは仮の姿。本名は「鍔崎(つばさき)フィリア」。24歳。身長164cm。本当のスリーサイズはB93(Gカップ)・W63・H92。
 本来は計算高く、仕事を最大のスリルと考える享楽的な性格。産業スパイを生業とし、格闘スタイルもボクシングではなく、CQC。「御前」の敵対組織に雇われ奏星社に潜入したが、それを看過する「御前」ではなかった。フィリアの正体を知りつつ<地下闘艶場>へと参戦させたのは、リングで嬲り尽くすためだった。

「噂に聞いた程度だが、有名な産業スパイだな」
 裏の世界を渡り歩いてきたナスターシャは、フィリアの存在を知っていたらしい。
「まあ、名前が知れている時点で二流だがな」
 ナスターシャの嘲弄に、フィリアの眉が微かに動く。
「・・・バレていたのね。噂以上の存在ね、『御前』というのは」
 前髪をかき上げたフィリアの表情は、先程までとは一変していた。子犬のような雰囲気は消え失せ、狼のような鋭さを身に纏っている。
「『御前』を甘く見過ぎたな。それでは、一緒に来て貰おうか? 色々と訊きたいこともあるのでね」
 ナスターシャの背後に控えていた筈の黒服が、フィリアの四方を取り囲んでいた。しかしフィリアは緊張も見せず、わざとらしく大きな息を吐いた。
「そこまでバレているのなら、仕方がないわね。どうかしら? 取引というのは」
 フィリアの申し出にも、ナスターシャたちは反応を見せない。
「もう一戦やって、私が負ければ私の持つ情報をそちらに渡す。私が勝てば無罪放免。どうかしら?」
 折角同僚と友好関係を築き、これから重要な情報を得ようとした矢先だったが、引き際を間違えては破滅が待つのみ。
「・・・それも面白いか。ちょっと待て」
 ナスターシャが背後に視線を送ると、頷いた黒服の一人が小型マイクを手にする。暫く何かやり取りをした後、ナスターシャに頷く。
「『御前』の許可が降りた。リングに上がれ」
「契約成立ね」
 不適に微笑んだフィリアは踵を返し、再び淫闘のリングへと足を踏み入れた。成り行きがわからなかった観客も、フィリアがリングに戻ったことで歓声を上げた。

 数分後、新たな男性選手が姿を現す。フィリアの待つリングへと上がり、周囲にペコペコと頭を下げる。
「赤コーナー、『ノーペイン』、尾代呑太!」
 二人目の対戦相手は尾代(おしろ)呑太(どんた)だった。中肉中背で、強者特有の雰囲気は微塵も感じられない。
「青コーナー、『女スパイ』、鍔崎フィリア!」
 本名がコールされたことでフィリアは眉を顰めるが、名を売ったと思えば良いと考え直す。どのみち潜入先では偽のプロフィールで行動するのだ。今はメイクでかなり容貌を変えているため、闘う姿を見られてもリスクは少ない。ナスターシャに条件を出したときには、既にそこまで計算していたのだ。
(この男も、たいした実力はなさそうだし)
 不適な笑みを浮かべたフィリアは、自らキャミソールに手を掛けた。
 キャミソールを脱いだ途端、観客席がどよめいた。内側からはちきれそうな水着のブラに目を奪われた者も多いが、キャミソールの下から現れた鍛えられた肉体は、それ自体が迫力だった。腹部には古傷が走り、フィリアが潜り抜けてきた世界の厳しさを思わせる。
 観客席の反応に、フィリアは微かに笑みを浮かべる。フィリアがキャミソールを脱いだのは、威嚇が主目的だった。尾代がたいした相手だとは思えないが、それでも念には念を入れる。
 尾代のボディチェックを終えたレフェリーがフィリアに近づく。
「先場、じゃない、鍔崎選手、ボディチェックを・・・」
「あら、さっき受けたじゃない? それとも・・・私とダンスでもしたいのかしら?」
 フィリアが指を鳴らす。先程とはまるで違う雰囲気と露わにされた肉体の迫力に、レフェリーの腰が引ける。
「い、いや・・・試合前にダンスもないな、うん。それでは、試合を始めるか」
 わざとらしい咳をしたレフェリーは、リング下に合図を送った。

<カーン!>

 ゴングが鳴ったというのに、尾代はフィリアの肢体をじろじろと眺めてくる。
「さっきの試合も見てたんスけど、全然雰囲気が違うっスね。謎のお姉さんっス」
「あら、謎は女を美しくするものじゃなくて?」
「確かに、謎で綺麗なお姉さんっス」
 頷いた尾代が、いきなり左手で掴みかかってくる。不用意に伸ばされた尾代の左手首を自らの左手首と二の腕で極めながら、右拳で尾代のこめかみを打ち抜く。極めた手首を離すと、尾代はリングに倒れ込んだ。
「他愛ないのね。レフェリー、これで試合は終わり・・・」
「勝手に終わらせないでくださいっス」
 いきなり背後からバストを掴まれる。
「っ!?」
 その手を掴んでバストから引き剥がし、肘打ちを入れてから距離を取る。
「ありゃ、おっぱいの感触は一瞬だったっス」
 そこに立っていたのは尾代だった。
(どういうこと?)
 拳に残る感触は、クリーンヒットしたことを教えている。しかし、尾代にダメージがあるようには見えない。
(急所を外したのかしら)
 ヒットした瞬間にポイントをずらされたのなら、それも有り得る。
「シッ、フシッ!」
 左ジャブから右ストレート。教科書のような綺麗なワンツーが尾代の顔面を捉える。しかし尾代は少し揺らいだだけで、フィリアに掴みかかってくる。
(この男、何かが変だわ)
 尾代の攻撃を軽々とかわしながらも、フィリアは眉を顰めた。
 フィリアの格闘スタイルはCQC。即ち戦場での命の遣り取りを想定したものだ。並の男なら纏めて三人相手にしても一分以内に制圧できる攻撃力を持つ。
 しかし、尾代はその攻撃を食らっても平気な顔をしている。防御力が高いのか、かわす能力が高いのかはわからない。しかしディフェンスとは違い、尾代のオフェンスは雑で荒い。攻防の落差がフィリアを混乱させる。
 そんな精神状態でも、フィリアは尾代を攻撃し続け、尾代の攻撃をかわし続ける。
(・・・いいかげん疲れてくるわね)
 体力的にではなく、精神的に疲労する。精神疲労は苛立ちへと変わり、苛立ちが凶暴な一撃へと駆り立てる。
「いいわ、これで決めてあげる!」
 尾代の右拳をかわした瞬間に左膝蹴り、チョッピングライト、左アッパーのコンビネーション。更にとどめの右ストレートを叩き込むと、さすがの尾代もダウンした。
(さすがに、これで・・・っ!?)
 フィリアの目の前で、まるでゾンビのように尾代が立ち上がる。
「う、嘘でしょ・・・?」
「嘘じゃないっスよ」
 顎を撫で、首の関節を二三度鳴らし、尾代はまたもフィリアに向かってくる。
「このぉっ!」
 どこを殴っても、何度殴っても、そのたびに尾代は立ち上がってくる。攻撃するフィリアのほうに疲労が圧し掛かる。
「いいかげんに・・・っ!」
 苛立ちと疲労が、拳を大振りさせていた。
「隙ありっス!」
 タイミングよく懐に潜り込んだ尾代が、フィリアを抱き締めていた。
「行くっスよ!」
 そのままロープ際まで走る。否、トップロープを越え、フィリアごと場外へとダイブする。
「ちょっと待っ・・・!」
 制止する間もなくエプロンサイドに叩きつけられ、場外へと落ちる。予想もしなかった自爆技に、フィリアはかなりのダメージを負ってしまった。
「やっと動きを止められたっス。これからが本番っスよ!」
 フィリアと同じダメージを負った筈なのに、尾代は平気な顔でフィリアを抱き起こす。
「綺麗なお姉さんは匂いもいいっスね」
 何度か鼻を鳴らして匂いを嗅いだ尾代は、フィリアをリングに戻し、自らも戻る。
「それじゃ、今の内に拘束させてもらうっス」
 フィリアは尾代にコーナーポストへと連れて行かれ、両手首をロープで絡められる。更にフィットパンツをずらされ、膝頭を拘束されてしまう。
「それじゃ、いただきますっス!」
 両手を合わせた尾代は、フィリアのバストを鷲掴みにする。
「うっは、やっぱりおっぱいおっきいっス! 揉み応えがあるっスね!」
 何故か何度も頷きながら、尾代はフィリアのバストを揉み込んでいく。
「や・・・やめなさいよ。今なら、許してあげるから・・・」
 痛みを堪え、尾代を脅す。
「そんな許しはいらないっス」
 しかしあっさりとかわした尾代は、フィリアの腹部の傷に目を留める。
「さぞ痛かったんっスね」
 古傷をつついた瞬間、フィリアの腰が微妙なくねりを見せた。
「おや? ははーん、さては・・・」
 何かがわかったのか、尾代は跪き、フィリアの腰を抱えるようにして傷口に舌を這わす。
「はひぃっ!」
 途端、フィリアの口から明らかな喘ぎ声が上がる。
「あ、やっぱり。弱点はここっスね。それじゃここを徹底的に舐めて、お姉さんの過去も綺麗にしてあげるっス!」
「馬鹿、やめなさ・・・いひぃぃっ!」
 威嚇のために露わにした傷が、今や弱みとなってフィリアを苛む。
「お楽しみだな、鍔崎選手」
 そこに、マイクを携えたレフェリーが近寄ってくる。
「だ、誰が・・・あはぅあっ!」
 レフェリーを睨みつけようとしたフィリアだったが、尾代の古傷への責めで喘いでしまう。
「いい声で鳴くじゃないか。お客さんも喜んでるぞ」
 レフェリーはフィリアの口元にマイクを突きつけ、フィリアの喘ぎ声を拾う。マイクで増幅された喘ぎ声は会場中に響き渡った。
「ちょっとやめて、こんな馬鹿な真似・・・ひぃうっ!」
「馬鹿な真似? 違うな、お前の厭らしい声をお客さんに聞いて貰ってるんだ。喜べよ」
「ふざけた言ってると・・・あうんっ!」
 どう言い返そうとも、喘ぎ声を上げては迫力も乗らない。
「止めて欲しかったら、こういうのはどうだ?」
 レフェリーはフィリアの口元にマイクを突きつけたまま、喘ぎ声を拾い続ける。
「お前のプライベートでも喋って貰おうか。どこで生まれたのか、初恋の相手、ファーストキス、ロストヴァージンの時期・・・」
 ご丁寧に指折り数えながら、レフェリーはフィリアに笑いかける。
「なんなら、産業スパイになった成り初めを教えてくれてもいいぞ?」
(そんなこと、言えるわけないじゃない!)
 パーソナル情報を掴まれれば、そこからフィリアの消してきた過去が浮かび上がるかもしれない。鍔崎フィリアという名もまた生まれついてのものではないので安心していたが、尚更今ここで情報は漏らせない。
「どうした、急に黙り込んで。そんなに感じたいのか?」
 フィリアの口元にマイクを突きつけながら、レフェリーはバストを撫で回す。
「そんな訳が・・・ひああっ!」
 否定の言葉も、尾代の古傷への舐め責めで中断させられる。
「ほれみろ、やっぱり感じてるんじゃないか。そら、もっと喘ぎ声を聞かせてくれよ」
 ここぞとばかりに言葉でもフィリアをいたぶりながら、レフェリーはバストを揉み込み、マイクを押しつける。
(まずい、このまま古傷を責められ続けたら・・・っ!)
 女の快楽を知る身体は、尾代の稚拙な責めにも応えてしまう。しかも弱点である古傷を集中的に責められ、一気に快楽指数が跳ね上がる。
「あっ・・・くあぁぁあああんっ!」
 高い高い声を上げ、フィリアは仰け反り、一気に弛緩した。
「なんだ、もうイッたのか? 好き者だな鍔崎選手」
 ブラの上からでもわかるくらいしこった乳首を刺激しながら、レフェリーが笑う。
「う、うるさ・・・はひぃぃっ!」
「自分の舐め責めでイッてくれて嬉しいっス、でも、これで終わりじゃないっスよ!」
 フィリアの古傷を舐め回しながら、更に秘部を責め、尾代が奮闘する。
「駄目、よぉっ! そんなこと・・・あああっ!」
 一度絶頂に達した身体は敏感さを増していた。小さな絶頂の波に襲われ、そのたびにあられもない声を上げてしまう。
「随分気持ち良さそうだな。スパイ活動も下半身中心でした、とかか?」
 右手でバストを揉み込みながらも、レフェリーはマイクを放そうとはしない。
「いやっ、そんなんじゃ・・・ひいあっ! 違うからぁ・・・あひぁぁあああっ!」
 またも絶頂に達し、全身を震わせる。それでも責めは終わらず、簡単に三度目の絶頂を迎えてしまう。
「・・・も、もう・・・勘弁、して・・・いひゃあああっ!」
 息も絶え絶えに絞り出した言葉も、男たちには届かない。否、より一層の責めを引き出してしまう。
(こ、このまま責められたら、どうなるかわからない! でも、私のプライベート情報は明かせない・・・!)
 ここで快楽に屈すれば、待っているのは社会的な抹殺だ。否、本当の死を招き寄せてしまうかもしれない。折れかけた心を必死に繋ぎとめ、快楽に抵抗する。
「随分頑張るな。ギブアップでもするか?」
 レフェリーの冗談に近い問いかけだったが、この提案に、フィリアは思わず頷いていた。
「わ、私を保護してくれるなら、ギブアップも受け入れるわ・・・あああっ!」
 それでも条件を付けたのはさすがと言うべきか。
「そうだな、一定期間でいいと言うことならOKが出るかもな」
 レフェリーの口から確約は取れなかったが、もう何度も絶頂させられたフィリアは目の前の選択肢に飛びついた。
「・・・ギブアップ」

<カンカンカン!>

 フィリアのギブアップ宣言により、試合終了のゴングが鳴らされる。しかし、会場の一角からブーイングが上がる。一際声高に叫ぶその男の元に黒服が足早に近寄る。素早く事情を聴き取った黒服はリングへと移動し、レフェリーに何事か指示を出す。
「運がなかったな、鍔崎選手」
 何度もの絶頂にぐったりとなったフィリアに、レフェリーが話しかける。
「あの叫んでた男、お前が以前『仕事』を行ったところの人間らしい」
(なんて運のない!)
 日本の権力者も集まる<地下闘艶場>だから、こんな偶然も有り得るだろう。しかし、今のフィリアには悪魔の悪戯に等しい。
「折角だ、あの客も含め、今日来てくれた皆さんにお詫びをしろ」
「お、お詫び・・・?」
「なに、お前自身は何もしなくていい。お客さんがお前の身体を触って喜んでくれるのを待つだけだ」
「そんな・・・!」
 尾代一人にもこんなに昂らされてしまったのだ。何百人も居る観客全員に責められて、果たして無事で居られるのか。快楽への恐怖がフィリアを襲う。否、それだけではなかった。
「やめて・・・こんな距離で見られたら、もう仕事ができなくなる」
 幾らメイクをしているとはいえ、至近距離で顔を見られれば特徴を覚えられてしまうかもしれない。それは産業スパイ・鍔崎フィリアの死を意味する。
「仕方ないな。そら、これでいいだろ」
 いきなり視界が塞がれる。フィリアが身に着けていたキャミソールで顔を隠されたのだ。
「それでは皆様、お待たせ致しました。裏の世界では有名な女スパイ、鍔崎フィリアのお触りショーを始めたいと思います!」
 黒服のマイクでの宣言に、既にリングに詰め掛けていた男達が歓声を上げる。
「尚、顔に触れることはできません。キャミソールに触れることも禁止です。順番はお守りください」
 黒服が挙げる注意事項に、観客たちが苛立ちの声を上げる。
「注意事項は以上です。では最初の方、どうぞ!」
「いぎっ!」
 いきなり胸に痛みが走る。男の乱暴な力がバストを潰す。
「でかいおっぱいはこうしてやるのが一番だな。どうだ、ええ?」
 男の問いかけにも、痛みに答えられない。
「時間です。次の方、どうぞ!」
「もう時間か? 早過ぎるだろ」
 ぶつぶつと文句を言いながらも、男は素直に退いた。二人目の男はフィリアの太ももを撫で回し、ヒップを揉みしだく。
「脂が乗ってるねぇ。大人の女の下半身だ」
「時間です。次の方、どうぞ!」
「もうかい? 楽しい時間はすぐに経つねぇ」
 二人目の男が退くと、三人目の男がすぐにフィリアの秘部へと狙いを定める。
「時間です。次の方、どうぞ!」
「時間です。次の方、どうぞ!」
「時間です。次の方、どうぞ!」
 何度も入れ替わりがあり、そのたびに新たな男がフィリアの肢体にむしゃぶりつく。
 最初は一人ずつだったが、回転率を上げるためか、徐々に一度の人数が増えていく。狭いコーナーに男が密集し、数人掛かりで責められる。
 いつしかブラは剥ぎ取られ、ボトムも奪われていた。直接乳房を揉まれ、乳首を扱かれ、淫核をつつかれ、秘部を撫で回される。古傷も合わせて責められると、もう堪らなかった。
 何度も絶頂に飛ばされ、すぐに刺激で引き戻される。もうどれくらいこうして責められているのか、時間の感覚が怪しかった。

 通気性の良いキャミソールだったが、フィリアの汗で顔に張りつき、呼吸を邪魔する。快楽、疲労、喘ぎなどで、フィリアの呼吸は散り散りだった。
「良く頑張ったな、次で最後だ」
 もう息も絶え絶えなフィリアの耳元で、ナスターシャが囁く。
「さ、最後・・・」
 確かに、周りで聞こえるのは一人の男の荒い呼吸だけだ。少し離れたところにレフェリーの気配を感じるが、黒服も気配を断ってフィリアの周囲を警戒しているだろう。
「それではお客様、大変お待たせ致しました」
 ナスターシャの丁寧な呼びかけに、男が近づいてくるのがわかる。いきなり乳房を握られた。
「お前の所為で、お前の所為で! 俺が幾ら大損したと思ってる!」
 フィリアの乳房を鷲掴みにした男は、容赦のない力で揉みしだく。どうやらフィリアの「仕事先」の男らしい。
「い、痛い!」
「痛いだと? 痛いのは俺のほうだ! お前のお陰で被った損害が幾らかわかっているのか!」
 男はまるで力を緩めず、握り潰そうとでも言うかのように乳房を揉みくちゃにする。
「俺の怒り、お前の体に叩き込んでやる!」
 男が、乳首までも強く潰してきた。

 5分経っても、10分経っても、男の怒りは治まらなかった。ナスターシャや黒服たちも男を止めようとはしない。
「も、もう・・・やめ・・・」
「何を言ってやがる! これくらいで済むと思うなよ!」
 男の指が秘裂の中で乱暴に動き、新たな蜜を生む。快感ではなく、防衛本能が膣を濡らしていた。
「お客様」
 女性の声の呼びかけにも、男は振り返ろうとしない。
「お客様」
「うるさい、なんだ!」
 フィリアの秘裂を乱暴に割り開いた男が怒鳴る。
「感じさせてやるほうが、この女に屈辱を与えられますよ?」
 ナスターシャの囁き声に、男が少し冷静になってくる。背中に押しつけられた胸の感触も、その一助となったかもしれない。
「・・・それもそうだな」
「勿論です。この女、お腹の傷を舐められるのが一番感じるみたいですので、ここを重点的に責められてはどうですか?」
 ナスターシャが後ろから男の手を取り、フィリアの腹に走る傷口をなぞらせる。
「くぅっ」
 たったそれだけで、フィリアの腰が動く。
「そうか・・・お前の弱点はここだったな」
 男の目から徐々に怒りの炎が去り、欲望の光が強さを増す。
「さっきも舐められて、あられもない反応してたよなぁ」
 傷口の縁をなぞり、男が厭らしい笑みを浮かべる。
「駄目、よ・・・そこはぁ・・・んんっ!」
 心ならずも甘い声が零れる。
「触っただけでこれか。舐められると、もっと気持ちよくなるんだよな?」
 男の顔に、嗜虐的な笑みが浮かぶ。唇が割れ、赤黒い舌が這い出す。その舌が、フィリアの腹部へと伸ばされた。
「あひぃぃっっ! そこはっぁぁぁっ!」
 敏感な古傷を舐められ、フィリアの腰が何度も跳ねる。しかし男は舌の動きを加減せず、逆に更に激しく舐め回す。
「駄目、駄目駄目駄目ぇ! そこは・・・駄目ぇぇぇっ!」
 腰の跳ねが止まったと同時に、秘裂から愛液が迸る。
「ははははは! イキやがった、俺に舐められただけでイキやがったぞ!」
 男が唾を飛ばしながら喚く。
「おっと、舐めるだけじゃここが寂しそうじゃないか。ええ?」
 男は傷口を舐めながら、秘裂へと指を突き立てる。
「ひぎぐぅうっ!」
 かなり乱暴な入れ方だったが、愛液でずぶ濡れのフィリアの膣は易々と男の指を飲み込んだ。
「なんだ、さっきとは違って濡れ濡れじゃないか。厭らしい奴だ」
 フィリアを嘲った男は、そのまま指を乱暴に出し入れする。出し入れするだけではなく膣壁も刺激し、快楽でフィリアを責め立てる。
「あぎっ、ひぎぃっ! いぎぅぅぅ!」
 二本の指で膣を抉られ、親指で淫核を潰され、古傷を舐められる。
「そら、イケよ! またイキなっ!」
「やっ、いやっ、ひああああああああっ!」
 容易く絶頂に達し、フィリアの膣からまたも愛液が迸る。
「こんなに厭らしい蜜を垂らしやがって。折角だ、俺が啜ってやる」
 フィリアの秘部に吸いついた男は、わざと大きな音を立てて愛液を啜り上げた。男は愛液を啜るだけではなく、秘裂を割って舌を入れ、愛液を掻き出しながら飲み込んでいく。
「や、やめてぇ・・・もう・・・いやぁ・・・」
 数々の修羅場を潜ってきたフィリアも、ここまで徹底した快楽責めに遭うのは初めてだった。最早身体は刺激に反応するだけで、頭には桃色の霞がかかっている。
「何が嫌だ。これだけ喜んでいるくせに!」
 フィリアを嘲った男は、再び腹の古傷を舐め回す。そうされるとフィリアは喘ぎ声を上げ、腰を跳ねさせてしまう。
「そらみろ、淫乱女め! 罰にもなりはしないな!」
 男の狂笑が、どこか遠くに聞こえる。
(どこまで耐えれば・・・終わるの・・・)
 いつ果てるとも知らぬ責めの中、フィリアの意識は暗黒へと沈んだ。


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