【特別試合 其の六十七 イレーナ・シュロップシャー:グラップリング&ボクシング】  紹介者:サイエンサー様


 犠牲者の名は「イレーナ・シュロップシャー」。25歳。身長169cm、B95(Hカップ)・W63・H91。

 宝石の様に煌めく長い銀髪、柔らかく垂れ気味の碧眼の目元には泣き簿黒があり、瑞瑞しい果実を思わせる小振りな唇が観る者の目を逸らさせない。

 まだあどけない少女の顔立ちでありながら、気品溢れる芯の強さと大人の艶やかさが同居している。モデルの様に長い手足と、その華奢な身体からはち切れんばかりに突き出た双乳、そしてツンと上を向くヒップがあまりにも彼女から現実味を奪ってしまっている。

 とあるイギリス貴族の息女であり、やり手の実業家。実家の資金を元手に世界規模で事業を拡大し、一族随一の資産を持つ。

 幼少から高貴なる者の務めとして様々な習い事や知識を学ばされた。彼女自身も生まれながらにその意味を理解し、常に期待以上の結果を出し続けてきた才女。その裏には自分の家系への誇りと、強烈な負けず嫌いな性格による、周りに悟らせない影の努力があった。まさにスワンスイムの申し子。

 自衛と自己鍛練のため学んだグラップリングの腕は本物で、社会人になった今でも鍛練を重ねている。その他にも多くの武術に精通し、自分の糧にしている。

 関係各国とのパイプを作り、事業を拡大している彼女が次に目を付けたのが日本であり、持ち前の手腕と人心掌握術で上流階級へのコネクションを瞬く間に広げていった。しかし変化を嫌う旧泰然とした一部の日本人には疎ましい存在でもあり、<地下闘艶場>に目をつけられるのは必然であった。

「日本有数の権力者とのコネクションを紹介する」

 その甘い誘惑に、イレーナはきな臭いものを感じながらも出場を決めた。例え罠だとしても粉砕して押し通る。それだけの実力を秘めた美女へ、<地下闘艶場>への門が開かれた。


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 銀髪碧眼の美女が<地下闘艶場>へと降り立った。ガウン姿の美女が花道を進むたび、巻き起こっていた野次が小さくなっていく。皆、その美貌へと魅了されていくのだ。

 その美女、イレーナがリングへと上がると、普段の<地下闘艶場>にはつきものの野次や指笛が止んでいた。


「赤コーナー、『サブミッション・スネーク』、ヴァイパー!」

 イレーナの対戦相手は、蛇を思わせる冷たい瞳と絞り込まれた肉体を持つ男で、黒いボディタイツを身に着けている。

「青コーナー、『ノーブル・ドルフィン』、イレーナ・シュロップシャー!」

 コールを受けたイレーナはガウンを脱ぎ去る。その下にあったのは、胸元も露わなネイビーのイブニングドレスだった。Hカップのバストが形作る谷間が男の視線を奪い、スカートの左部分に入れられたスリットからは脚線美が覗く。その両手には、手袋を模した同色のオープンフィンガーグローブが装着されている。同色のストッキングも身に着けたその姿は、まさしく貴族の御令嬢だった。

 イレーナが長い銀髪を掻き上げると、長い溜息が会場から零れた。


 ヴァイパーのボディチェックを簡単に終えたレフェリーが近づいてくる。

「イレーナ選手、ボディチェックだ」

 そのまま胸へと伸ばされた右手は、イレーナに極められていた。

「な、何をする・・・いだだだ!」

「どこに触ろうとしているの?」

「どこって、ボディチェックの一環・・・いだだーっ!」

 ふざけたことを言うレフェリーの手首を、軽く捻ってやる。それだけで言い訳が止む。

「ボ、ボディチェックを受けないとどうなるか・・・」

 見上げたことに、それでもレフェリーは言葉を続ける。

「あら、私の試合がなくなってもいいんですの?」

 会場の雰囲気やレフェリーの行動により、この試合がイレーナを目的として組まれたと推測できる。ならば、困るのは運営側だろう。もし仮に試合が成立しない場合の違約金を請求されても、イレーナに払えない額ではないのだ。

 と、突然イレーナがレフェリーの手を放し、優雅に身を翻す。自由を取り戻したレフェリーは、急いでゴングを要請した。


<カーン!>


 イレーナの背後から襲い掛かったヴァイパーだったが、イレーナはあっさりと躱して見せた。

「クカカッ、やるじゃないか」

 ヴァイパーの身体が、極端な前傾姿勢となる。蛇が鎌首を擡げ、今にも飛びかかろうとかいう姿勢だ。対するイレーナは、オーソドックスなファイティングポーズだ。

「クカカ・・・」

 鎌首を擡げたまま、ヴァイパーがじわり、と前進する。

 蛇が、一気に動いた。イレーナの襟を掴もうと、牙と言う名の両手を突き刺そうとしてくる。しかしイレーナも冷静に捌き、ドレスに触れさせない。

「クカカッ、やるな」

 長い舌で唇を舐めたヴァイパーが蹴りを放った。否、右足でイレーナのスカートを捲っていた。

「っ!」

 女性の嗜みとして、反射的にスカートを押さえてしまう。その僅かな隙を衝かれた。

 ヴァイパーの低いタックルがイレーナの両足を刈り、寝技へと引き込まれる。

(スカートを捲ってくるとは、紳士の振る舞いではありませんね)

 闘いを冒涜したヴァイパーに、静かな怒りが生じる。

「クカカ、まさかスカート捲りで隙ができるとはな」

 自分がスカートを捲っておいて、ヴァイパーがにやつく。しかもスカートの中に手を入れ、イレーナのヒップを撫でてくる。

「気軽に触らないでください」

「おっと、そいつは困る」

 防御に回そうとした右手が、ヴァイパーの左手に捕らえられる。ヴァイパーは反対の手でイレーナのヒップを撫で回す。

「触らないでと言っているでしょう」

「まあそう言うな」

 ヴァイパーを突き飛ばそうとした左手はヴァイパーに掴まれ、ヴァイパーの右膝で押さえつけられる。

「お前の尻肉の感触が良くてな、手が離れようとしない」

 ヴァイパーの戯言を余所に、イレーナは右手を動かすが、ボディタイツのために掴む部分がない。

「大事なところは、後のお楽しみに取っておくか」

 ヴァイパーはスカートから手を抜き、イレーナの豊かな胸元へと視線を這わす。

「さて、そろそろおっぱいで楽しませてもらおう」

 ヴァイパーの右手が、ドレスを押し上げて存在感を発している双丘へと伸ばされる。

「ヌッ?」

 その手が胸へと触れる前に、横合いから弾かれる。弾かれるだけでなく引かれ、バランスを崩しかけたところに下から跳ね上げられる。

「チィッ」

 イレーナの上から落とされたヴァイパーだったが、さすがに寝技のスペシャリストだけあり、すぐさま立ち上がる。

 同じく立ち上がったイレーナは、小さく息を吐く。

「実力を試すためとは言え、胸にまで触れてこようとするとは・・・」

 その眼がどこまでも冷たくなる。

「お仕置きが必要ですわね」

 イレーナの左ジャブが、一瞬で三発もヴァイパーの顔面を捉えていた。ぐらりとよろめくヴァイパーを、イレーナは背後からのスリーパーホールドで捕えた。数瞬の後、ヴァイパーの体から力が抜け落ちる。

「ふっ!」

 鋭い呼気と共に、スリーパーホールドの体勢のまま後方へと投げを打っていた。細身だとは言え、成人男性のヴァイパーを軽々と投げ飛ばした光景に驚きの声が上がる。

 イレーナがスリーパーホールドを解いて立ち上がると、レフェリーが慌ててヴァイパーの状態を確認し、すぐに試合終了の合図を出す。


<カンカンカン!>


 イレーナはドレスの乱れを整え、銀髪を掻き上げる。

「・・・少し、慎重になり過ぎましたか」

 相手の実力を測るために攻撃をさせたが、予想外のセクハラ攻撃に隙を作ってしまった。反省材料にしなければ。

 退場しようとしたイレーナの背に、レフェリーが声を掛けてくる。

「イレーナ選手、もう一試合してくれないか?」

「なぜ?」

 あまりに短い返答に鼻白むレフェリーだったが、すぐに理由を説明する。

「まだお客さんが満足していない。勿論、無料(ただ)とは言わない」

 イレーナが聴いているのを確認し、レフェリーは続ける。

「勝てば、援助の追加。ただし、負ければ今の勝利が無効となる」

「良いでしょう。その勝負、受けますわ」

 イレーナは、常に高い壁を越えようと努力してきた。ならば、連戦も受け入れる。ただそれだけだ。

「さすがイレーナ選手だな。それじゃあ、少し待っていてくれ」

 レフェリーの下品な笑みが、癇に障った。


「お、来たな」

 レフェリーの声に、イレーナも花道に視線を向ける。その視線の先で、イレーナの第二戦の相手が花道を歩んでくる。

(・・・できますわね)

 その歩き方を見るだけで、イレーナは気持ちを引き締め直した。遠目からも年齢を重ねた小柄な男性であることがわかるが、その隙の無さは尋常ではない。

 白髪で、黒い道衣に黒い帯を締めた男性が、リングへと上がる。柔らかな微笑みが、イレーナの背筋を冷たくさせた。


「赤コーナー、『最強老人』、元橋堅城!」

 元橋(もとはし)堅城(けんじょう)の名前がコールされると、観客が一斉に沸く。それも当然だろう。その実力は裏の世界にも鳴り響き、<地下闘艶場>での活躍は枚挙に暇がないほどだ。

「青コーナー、『ノーブル・ドルフィン』、イレーナ・シュロップシャー!」

 自分よりも背が低い元橋に、イレーナは異常なほどの気後れを感じていた。こんな経験は今までにない。

(・・・始まる前からこのような弱気では、勝てるものも勝てませんわ)

 イレーナは拳を開閉し、深呼吸した。


<カーン!>


 その耳にゴングの音が届く。それを合図にボクシングのステップで距離を詰め、ジャブのスピードで元橋の襟を狙う。

「!?」

 しかし掴めない。老人である筈の元橋が、自分のスピードに楽々と反応している。

(ならば)

 自分の胸元へと伸ばされた元橋の右手を極めようとする。否、関節技を狙うと見せかけ、本命の右ストレート。

「なっ!」

 そのストレートが空を切っていた。いきなり尻に痛みが走り、自分が尻もちをついたことを知る。

 転がって立ち上がる途中、膝をついたときに違和感を感じる。

(えっ、私はいつ素足に?)

 何故かストッキングがなくなっている。

「えっ?」

 なんと、元橋の手にあった。あまりにもあっさりとストッキングを脱がされて両脚と尻を丸出しにされ、狼狽えながらも立ち上がる。

「ほぉ、イレーナ選手はTバックか」

 レフェリーの言葉を黙殺し、元橋へと集中する。その元橋はイレーナから脱がせたストッキングをリング下の黒服に渡し、イレーナへと向き直る。

 恐ろしいのは、その動作一つ一つにまるで隙がないことだった。

「さて、続けましょうかな?」

 元橋は笑顔を浮かべたままだ。その笑顔が圧迫感すら生じさせる。

「くっ!」

 ジャブの三連打から右フック。しかし掠りもしない。返しのボディフックを放った瞬間、またも尻もちをつかされていた。

「さてさて、では胸からいきますかな?」

 元橋がイレーナの腹部に跨っていた。

(いつの間に!)

 定石通りにブリッジで振り落とそうとした瞬間、ドレスの胸元が下げられていた。

「あっ!?」

 思わず胸元を庇ってしまい、ブリッジが崩れる。

「おや、胸はお嫌ですかな?」

 元橋は右手を後ろに回し、秘部へと触れてくる。

「んくっ!」

 思わず意識がそちらに向いた瞬間を狙われた。

「あっ!」

 イレーナの豊かな胸を守っていたビスチェのカップがずらされ、乳房が露わとなっていた。ビスチェを戻そうとした手が、頭上へと押さえつけられた。

「ふむ、中々の大きさですな」

 軽々とイレーナの手を押さえ込んだ元橋が、大きさを計るように左乳房を弾ませてくる。

(この方、女性に慣れていますわね・・・)

 乳房への触り方で判別できる。しかもかなりの技量だ。

「いやはや、随分と手入れをされている肌ですなぁ。乳房までもすべすべですからな」

 元橋が左乳房を撫で回す。その途端、ピリピリと電気が走ったようだった。

「ふむ、乳首が立ってきましたな」

 元橋が優しく、それでいて的確に、左乳首を指で押し込む。

「んああっ!」

 その声に、自分自身が驚く。このような声が自分の口から出ようとは、思いもしなかった。

「おやおや、乳首がお好きなようだ」

 元橋が絶妙な力加減で乳首を愛撫してくる。優しく撫で、弾いてくる。

(このような巧みさ、人生経験の差でしょうか)

 イレーナとて、異性に胸を触られたことくらいはある。しかし、今のような昂りの予兆はなかった。元橋に乳房を揉み込まれるたび、桃色の電流が勢いを増す。

「んっ、んん・・・っ」

 知らず、イレーナの唇から小さな喘ぎが零れていた。

「それでは、そろそろ本番といきますかな?」

(こ、これでまだ本気ではないと?)

 これ以上快感を与えられるのは危険だ。腰が抜けかねない。

 元橋が秘部へと手を伸ばした瞬間、

「んんんぅぅっ!」

 快感を必死に堪え、一気のブリッジで元橋を跳ね落とす。

(胸を隠すのは後回し、まずは攻撃!)

 元橋との実力差は絶望的なものだ。ならば、一気呵成に攻めるのみ。

(達人相手に、胸を隠す隙(ひま)などありませんわ!)

 乳房を隠そうともせず、イレーナは元橋に肉薄する。豊かな乳房が揺れ、レフェリーの視線が釘付けになる。

「ふっ!」

 鋭い呼気と同時に左ジャブ。しかしそれはフェイント、元橋の左肘の捕獲を狙う。

 さすが元橋だった。それを読んでいたかのように、イレーナの左手首を掴んでくる。

「ふっ!」

 しかし、それもイレーナの予測通りだった。イレーナも元橋の右手首を握り、元橋の小柄な体躯を引き上げながら足を刈る。そのまま元橋からマウントを奪う。

(ここで決めますわ)

 元橋相手に、そう何度も好機は得られない。このまま袈裟固めで押さえ込み、スリーカウントを取る。

「んあっ!」

 しかし、その目論見も乳首と秘部への刺激で崩れ去る。力が抜けたところをするりと逃げられてしまう。

「やりますなぁイレーナさん」

 元橋の口調はまったく変わらない。それどころか、イレーナへの称賛は心からのものだと感じる。

 だから、それが恐ろしい。まったく崩れない余裕が恐ろしい。

 と、目前に元橋が居た。しかも掌底が鳩尾へと迫る。

「っ!?」

 慌てて防御しようとした右肘が掴まれる。

(関節技狙いですか?)

 力ではイレーナのほうが上だ。無理やり振り払う。否、振り払おうとした瞬間、両足が刈られ、宙に浮いていた。

(・・・なんという手練れ)

 打撃技のフェイント、関節技、それを囮にした投げ。先程イレーナがした攻撃とまったく同じ流れを繰り返され、リングの上で押さえ込まれている。

「さて、イレーナさん。負けを認めればそれで終わり。そうでなければ、また恥ずかしい思いをしてもらいます」

 イレーナの上に跨ったまま、元橋が宣言する。しかし、イレーナとてそう易々と敗北を認めるわけにはいかない。

「・・・ふむ、まだ続けますか」

 元橋の右手が、イレーナの乳房へと伸ばされる。

 乳房に触れられることが恐ろしく、右手で庇う。と、その手首が掴まれた。そう意識したときには、自分の右腕が自らの首に巻きついていた。更に左肘に痛みが奔る。

(い、一体なにがどうなって・・・)

 自分の身体が自分の意志に反する動きを強制され、関節技へと極められていく。

「うっ・・・ぐぐっ・・・」

 気づけば、左腕を極められつつ、自らの右腕で喉元を絞め上げられている。元橋の関節技<自業自縛>が極まっていた。

「ギブアップをお勧めしますが・・・イレーナさんはされないでしょうなぁ」

 元橋の耳元での囁きに、呻き声で返す。

「では、気持ち良くなってもらいましょうかな」

 ドレスの胸元とビスチェはずらされたままだ。その剥き出しの乳房と乳首が、再び元橋の手で愛撫される。

「はぁっ! うぐっ」

 その甘さに喘げば、自らの右腕で絞め上げられる。

「イレーナさん、まだ続けますかな?」

 右乳房と右乳首を愛撫しながら、元橋が確認してくる。

「ううっ・・・」

 大きな声は出せないが、拒絶の意志を込める。

「ふうむ、胸では負けを認めませんか」

 元橋の手が乳房から離れる。

「では、ここしかありませんなぁ」

 元橋の右手が、優しく下ろされた。

「あふぅうん!」

 秘部からの刺激はどこまでも甘かった。そして甘さに脱力すれば、<自業自縛>が更に深く極まっていく。もがこうにも、苦しさと酸素不足で力が入らない。思考が働かない。

(こうなったら・・・)

 ある決断をし、イレーナは苦しい中で口を開く。

「・・・ギブアップ」

 イレーナの敗北宣言に、元橋はすぐさま<自業自縛>を解く。


<カンカンカン!>


 それに遅れてゴングが鳴らされ、イレーナの負けが正式に決まる。イレーナは胸元の乱れを元に戻し、一度目を瞑る。

(恐ろしい・・・日本には、まだこのようなマスタークラスの老人が居るとは)

 手合わせをして、絶対的な実力差を思い知らされた。イレーナに日本人のような特攻精神はない。勝算がなければ撤退する、それだけだ。

(コネクションは諦めるしかありませんわね)

 正直に言えば、日本有数のコネクションとなれば惜しい。しかし、失ったのならば仕方がない。諦めるだけだ。

「イレーナ選手、提案があるんだが・・・」

「提案?」

 レフェリーの言葉に振り返る。

「このままでは帰れないだろう? どうだろう、もう一試合するのは。勝っても負けても、これが最終戦だ」

「・・・対戦相手は?」

「安心しろ、元橋選手じゃない」

 イレーナの質問の目的を悟り、レフェリーが嘲笑を浮かべる。勿論、それに腹を立てるほど狭量なイレーナではない。

(元橋ではない、となれば・・・)

 あれほどの達人が、そうそう居るとは思えない。ならば勝機はある。

「・・・わかりました。最終戦、お受けしますわ」

「さすがは英国貴族の御令嬢だ。話が早い」

 レフェリーはリング下の黒服に頷き、合図を送る。その目が欲望に光ったことに、イレーナは気がついていた。


「赤コーナー、『破戒僧』、護覚!」

 イレーナの最終戦の相手は護覚だった。頭は剃り上げているものの、無精髭を生やし、ぼろぼろの袈裟を纏っている。

「青コーナー、『ノーブル・ドルフィン』、イレーナ・シュロップシャー!」

 自分の名前のコールにも反応は見せず、イレーナは冷徹な視線で護覚を観察する。

(元橋のような実力はない。しかし油断をしてはいけまんせわね)

 イレーナの警報ラインに引っ掛かるものがある。それが何かはわからないが、先程のような敗北をするわけにはいかない。

「最終戦だ。イレーナ選手、頑張ってくれよ」

「ええ」

 最早視線すら向けず、イレーナはレフェリーに短い返答だけをする。

「まあ、例え勝っても、さっきの負けの分のペナルティが待っているけどな」

「待ちなさい、今なんと・・・」

 レフェリーからの答えの代わりに、第三戦のゴングが鳴らされた。


<カーン!>


(仕方がありませんわ、今は闘いに集中せねば)

 レフェリーの聞き捨てならない言葉はあったが、まずは勝利を上げねばならない。

「銀髪のおなごとは闘ったことはないのぉ」

 護覚は顎髭を撫で、イレーナの身体を眺め回してくる。その立ち姿に脅威は感じない。

(隙か誘いか、乗ってあげましょう)

 三戦目の疲れも見せず、イレーナは鋭い踏み込みからボディフックを放つ。

(?)

 護覚の鳩尾を抉った筈の右拳には、柔らかな感触しか返ってこない。

(なるほど、掌ですか)

 護覚が懐に右手を忍ばせ、掌でジャブを受け止めたと分析する。

(ならば、フェイントから顔面か投げを狙うべきですわね)

 狙いを定め、ステップインしようとした瞬間だった。

「『喝ッ!』」

「っ!?」

 護覚が発した気合いを浴びた途端、身体が動かなくなった。

(なに、どういうことですの?)

 イレーナを焦りが襲う。手、足どころか、指一本動かせない。

(薬物を打たれた? いいえ、どこにも痛みはなかったですわ)

 それに、一瞬で身体の自由のみを奪う薬物など聞いたことがない。薬物ならば自発呼吸も止まる筈だ。

「どれ、お楽しみといこうかの」

 思考は止めないイレーナに、護覚が近づいてくる。そのまま両手を伸ばし、イレーナのHカップバストを鷲掴みにしてくる。

「この大きさは堪らんのぉ。善哉善哉」

 ドレスの上から揉んできた手が、するりとドレスの内側に潜り込むとまたも揉みだしてくる。

 しかしそれも長くは続かず、護覚はドレスの肩紐をずらし、ビスチェに包まれた双丘を露わにする。

「ほほう、変わった下着よのぉ」

 護覚はビスチェをじろじろと眺める。

「だが、下着よりも生のほうが善いの」

 護覚はビスチェのカップ部分を持ち、引き下ろす。ビスチェのカップ部分までもずらしたことで、イレーナのHカップを誇る乳房が揺れながら解放される。

「うむぅ、直接見ると尚更大きさがわかるのぉ」

 Hカップの揺れる様を眺めていた護覚だったが、その揺れに誘われたように乳房へと手を伸ばす。

「毛唐のおなごは乳肉の感触が違うの。善哉善哉」

 そのみっちりとした密度に、護覚は何度も頷く。

「そう言えば、まだボディチェックをしていなかったじゃないか」

 ここぞとばかりにレフェリーまでセクハラに加わり、イレーナのヒップを撫で回してくる。

「審判、お主も好き者じゃのぉ」

「お前さんほどじゃないさ」

(下品な冗談を・・・しかし、なぜ身体が動きませんの?)

「呪縛」されたイレーナに、「呪」を解く方法はわからない。その間にも護覚もレフェリーもイレーナの乳房を、乳首を、ヒップを好き勝手に触ってくる。

 乳首を弄っていた護覚がにやりと笑う。

「ほう、宝塔がもう硬くなったか。善哉善哉」

(先程の責めがなければ、この程度のことで・・・)

 元橋の巧みな愛撫は、時間が経った筈の最終戦までイレーナの内部に熱を残していた。

(この程度の人間に、身体を好き勝手にされるとは・・・)

 元橋相手ならば、その実力の違いに納得できた。しかし、護覚の奇妙な術で縛められた今は憤懣しか生まれない。

(このような辱めを受け続けても良いのですか? 動きなさい、私の身体)

 自分の身体を好き勝手にされる屈辱に、イレーナの心が怒りで充満する。

(この感覚・・・)

 何かを掴み、振り払う。途端に身体の自由が戻ってくる。

「ぬっ、もう動けるか!」

 気づいた護覚が飛び下がる。逃がすまいとしたイレーナだったが、予期せぬ刺激が与えられた。

「Ahaaaau!」

 レフェリーが両方の乳首を転がしてきたことで、腰の力が抜けてしまう。元橋から与えられた快感の残滓が、未だにイレーナを縛っているのだ。

「『喝ッ!』」

 そこに、再び「呪」が飛ばされる。

(ああっ、また・・・)

 またも護覚が放った「呪」により、身体の自由が奪われる。

「驚かせてくれる」

「ああ。さすがはイレーナ選手、ってところか」

 護覚とレフェリーが再びイレーナに近寄り、その身体に手を這わす。

「もうこのような豪華な着物もいるまいて」

 護覚はイレーナの手足を動かしながら、ドレスを脱がせていく。レフェリーも手伝い、あっさりとドレスがリングへと落ちる。それにより、イレーナの胸と腹部を覆うビスチェが露わとなる。

(自分では手足を動かせないのに、この男には動かすことができるとは・・・)

 訝しむイレーナだったが、やはり手足は動かせない。

「では、この下着も・・・」

 護覚はビスチェも外そうとするが、カップ部分はずらせているもののビスチェ自体を脱がすことができない。

「審判、この下着はどうやって外せば良いのだ?」

「ああ、ビスチェだな。コルセットタイプだから、この後ろ側の金具と紐をだな・・・」

「ふむ、面倒臭いものよな」

 護覚はビスチェを外すことをレフェリーに任せ、顎を撫でる。

「よし、外れたぞ」

 レフェリーがビスチェのコルセット部分を留めていた金具を外し、そのままビスチェを放り投げる。ビスチェを脱がされたことで、重量感たっぷりの乳房が解放される。

「うむ、やはり乳肉は生で観賞するのが一番じゃの。善哉善哉」

 護覚はHカップを誇るイレーナの乳房を目で犯す。

「護覚、最後の一枚はどうする?」

 レフェリーがイレーナのヒップを撫でながら護覚に訊く。

「最後の一枚はそうじゃの、残しておくほうが色っぽいの」

「それもいいかもな。脱がす楽しみは後に回すか」

「うむ。なので、まずは尻から手を離せ」

 護覚はレフェリーを制し、一度下がらせる。そして、まるで生き人形のようにイレーナの手足を動かしていき、膝を大きく広げさせた状態で膝立ちとさせる。今度は頭の後で両手を組ませ、グラビアアイドルを思わせるポーズを取らせる。

「うむうむ、善い風情となったの」

「ああ、堪らないな。笑顔だったらもっと良いんだが・・・」

「無いもの強請(ねだ)りは仏罰を受ける。今有る中で楽しまねばの」

「ここだけ聞いていると本物の坊さんみたいだな」

「まあ、破戒僧であるのでな、功徳は有るまいて」

 くだらないやり取りをしながら、護覚とレフェリーがイレーナに近づく。

「どれ、乳肉を可愛がってやろう」

 護覚はイレーナの背後で膝をつき、両手でHカップの乳房を揉み込んでいく。

「それじゃあ、俺はこっちを・・・」

 レフェリーはイレーナの前側から秘部を弄る。

(下衆な男たちですわ)

 護覚の術によって身体は動かず、そこに付け込んでセクハラを行う。下衆と言わずになんと呼べば良いのか。

(っ!)

 心中に怒りを溜めるイレーナだったが、更に驚いてしまう。レフェリーの手が下着の中に潜り込み、秘裂を直接撫で始めたのだ。ここまでするのかと叫びたいが、声も出ない。

 更にレフェリーの手が蠢き、秘裂を割り開く。それだけでは済まず、秘裂の奥へと進んでいく。

「・・・おいおい、マジか」

 秘裂の中に指を進めたレフェリーが驚きの声を発する。

「む? どうした審判」

「いや、それがな・・・」

 レフェリーは護覚に小声で告げる。

「・・・なるほどのぉ。善哉善哉」

 それを聞いた護覚は顎を撫でながら何度も頷く。

「ならば、より張り切って快楽を教え込まねばの」

「そうだな」

 護覚とレフェリーは欲望を更に増し、イレーナの身体に刺激を加えてくる。

(まずいですわ・・・)

 元橋に責められ、高められた官能が、未だにイレーナの中で燻っている。それが男たちの責めに頭をもたげ、イレーナの内部で快感の暴風となって吹き荒れる。

(しかし、達するわけには・・・)

 絶頂すれば恥ずかしいのは当然だが、何よりも体力を奪われてしまう。勝利のためには体力を温存しておかねば。

 危機に瀕しても、イレーナはまだ勝利を諦めていなかった。

「ふむ? 耳まで赤らんできたの」

「そろそろイキそうってことか?」

 イレーナが感じていることに護覚が気づく。下品な笑みを浮かべたレフェリーは、秘裂への刺激を強くしていく。

「我慢しなくていいんだぞイレーナ選手、イッてしまえ」

「うむ、快楽を拒むのはおなごの性(さが)を否定することよ。受け入れねばの」

 護覚はイレーナの硬くなっている乳首を転がし、弄り、押し込む。

 敏感な箇所を責められ続けることで、イレーナの動かない身体が快感を溜め込んでいく。

(このままでは・・・しかし、勝つためには達せない・・・っ)

 精神力で快感を押さえ込むが、発生する快感量のほうが大きく、確実に剣ヶ峰が近づいてくる。

 そして。

(くっ、うっ、うぅ・・・っ)

「軽くだがイッたようだな」

 イレーナの秘裂が一気に濡れたことで、レフェリーが耳元で囁く。

「達したか。ならば、次は・・・」

 護覚がまたもイレーナの手足を動かしてくる。

「お嬢様育ちには、下々の気持ちもわからせねばなるまいて」

 護覚がイレーナにさせたのは、四つん這い。所謂ドッグスタイルだった。しかも尻を高々と上げさせ、一層の屈辱感を与える。

「こいつはいい。それじゃ、俺は・・・」

 イレーナの下側に潜り込んだレフェリーは、重力に従ってより大きさを増したように見える乳房を揉み始める。

「すぐ目の前におっぱい。堪らんな」

 レフェリーは左乳首へと吸いつき、右乳首は指で潰す。

 一方、護覚はイレーナの尻側に回る。

「どれ、観音様を拝ませてもらおうかの」

 護覚はイレーナの秘部を守るTバックのクロッチをずらし、直接秘裂を見つめる。

「うむ、綺麗なものよ。しかも愛液に煌めいておる。善哉善哉」

 そのまま秘裂を左右に開き、吸いつく。しかも舌を動かし、秘裂の奥まで舐め上げてくる。

(こ、この男は、何をしているのですか!)

 あまりにも酷いセクハラに、イレーナの怒りが燃え上がる。それでも身体は動かず、怒りが充満していく。

「・・・うむ、これは善い。形といい、味といい、申し分がないのぉ」

 護覚は一旦秘裂から顔を上げ、繁々と見つめる。

「・・・そんなに綺麗なのか?」

 護覚の様子が気になったのか、レフェリーがイレーナの下から這い出す。

「うむ、下の毛が銀髪なのがまた、風情があって善い」

「そうか、俺にも見せてくれ」

 レフェリーがにやけたその瞬間だった。

「ぬうっ!?」

 突如、イレーナの長い右脚が護覚を蹴り飛ばす。一瞬反応が遅れた護覚はまともに食らってしまった。

「仕留められませんでしたか」

 イレーナはTバックの位置を正しながらも、油断なく護覚に視線を向ける。


 イレーナは充分な勝機が見えるまで、男たちのセクハラを耐えていた。その精神力は驚くべきものだ。そして、その頭脳は回転を止めていない。


(あのマジック、指向性があるのは間違いありませんわ)

 護覚が「呪」を放つとき、必ずイレーナを向いている。それがわかれば、採れる手段は幾らでもある。

「きついのをもらってしまったのぉ。まあ、その分はたっぷりと後で返してもらうのでな」

 護覚の肺と胸板が一気に膨らむ。

「『喝ッ!』」

 護覚が「呪」を放った瞬間、イレーナはレフェリーと位置を入れ替えていた。

「へっ・・・」

 一声漏らしたレフェリーが動きを止める。それを気にする間も取らず、イレーナは一気に距離を詰める。

「Haaaa!」

 今まで溜めに溜めた怒りを拳に乗せ、護覚の顔面を、腹部を抉る。

 イレーナの連打のサンドバッグとなった護覚が、ぐらりとよろめく。イレーナは上から覆い被さるようにして、護覚の首に上から右腕を巻きつけるフロントチョークを極め、容赦なく絞めていく。

 護覚の体が力を失い、両手がだらりと垂れ下がったところでゴングが鳴らされる。


<カンカンカン!>


 ゴングを聞いたイレーナはフロントチョークを解き、護覚の体を放り出す。

(ビスチェ・・・ドレスももうありませんわね)

 ビスチェもドレスも、既に片付けられたようだ。リングからなくなっている。

(まさか、この男の衣服を着るわけにもいきませんし)

 不潔な護覚の袈裟など、触れるのも嫌だ。

 どうしたものかと思いながらも、仕方なく乳房を隠しながらリングを降りようとする。

「勝利おめでとう、イレーナ選手」

 わざとらしい拍手をしながら、レフェリーがイレーナを呼び止める。どうやら、護覚が意識を失ったことで術が解けたらしい。

「それじゃあ、これからペナルティを受けてもらおうか」

「ペナルティ?」

「ああ、元橋戦で負けたペナルティだ」

「そのような話、聞いた覚えはありませんが」

「おいおい、さっきの試合が始まる前に言ったじゃないか」

(この男・・・)

 確かにペナルティと言っていた。しかも試合開始直前というタイミングで。勿論イレーナに反論させないためだろう。

(しかし・・・)

 今日の三連戦から考えると、碌なものでないことは明らかだ。

「ルールは、十分間だけセクハラを耐えること。簡単だろう?」

「セクハラですって?」

 先程までの試合のように、イレーナを辱めるつもりだろう。

「たった十分だ。それで強力なコネクションを得ることができるんだぞ? しかも手を出すのは一人だけだ」

(十分間・・・私の人生の中の、たった十分間。それを耐えればコネクションを得ることができる)

 普段のイレーナならばきっぱりと断っていただろう。しかし、今までにこなした三試合が、イレーナをコンコルド効果へと陥らせていた。これだけの試合をし、嬲られ、それで終わるというのは大損ではないのか、との思考に傾いていたのだ。

「折角のコネクションが得られる機会を、捨てるつもりか?」

 ここぞとばかりにレフェリーが言葉を被せてくる。

(・・・)

 羞恥と利益を天秤に掛け、イレーナは答えを出す。

「・・・わかりました。本当に十分間だけですわね?」

「ああ、そこは変更なしだ」

「ならば、受けましょう」

「わかった」

 頷いたレフェリーの顔が逆光となる。その顔は、下種な下級悪魔を思わせた。


「来たぞ、あの男がペナルティの執行人だ」

 数分の後、花道を一人の男が進んでくる。でっぷりと突き出た腹とサスペンダーがイレーナの目に入ってくる。

 ゆったりとした足取りで進んできた男は、ロープの間から苦労してリングへと上がる。

「ペナルティを行うのは、山森黄一郎です!」

 黒服が山森(やまもり)黄一郎(こういちろう)の名前をコールすると、会場中で歓声が起こる。その歓声が、イレーナの心に不安を生んだ。


 山森の到着を受け、レフェリーがイレーナに説明を始める。

「両手を腰の後ろで組んでくれ。執行人に攻撃したり、リングに膝をついたりしたらコネクションの話は消滅するからな」

「ええ、わかりましたわ」

 頷いたイレーナは、レフェリーの指示でリングの真ん中へと移動する。

「ドレスは返してもらえるのでしょうか?」

「残念ながら、それはできないな」

 無駄だろうと思いながら聞いてみるが、やはり返答は予想通りだった。諦めて正面を向く。

 銀髪の美女が、乳房も露わにリング中央に立つ。メリハリの利いた豊満な肢体を隠すのは、オープンフィンガーグローブとTバックのみだ。

(見たければ見ればいいですわ。それだけの価値を生むほど磨き上げてきた身体ですもの)

 卑猥な野次や口笛が耳に痛いくらいに飛んでくるが、イレーナは表情も変えない。

「では、始めますぞ」

 太鼓腹を叩いた山森が、イレーナの身体に触れてくる。セクハラと言うよりも、触診と言ったほうがしっくりくる。

「おい山森、時間がないんだぞ」

「ふぉほほ、焦ることはありませんよ」

 貴重な三十秒ほどを使った山森は、改めてイレーナの正面に立つ。

「それでは、本番といきますぞ」

 山森の両手の人差し指が伸ばされ、イレーナの肩の付け根を突く。

(この男は何をしているのかしら?)

 触っただけかと思いきや、今度は指で肩を突くだけとは。しかし山森の指は肩の付け根だけではなく、肘の内側、首の付け根、臍の横などを突いてくる。

(・・・おかしい)

 身体の変化にイレーナは気づく。山森に指で突かれるたび、身体の中に火が生まれ、イレーナを炙ってくるのだ。


 イレーナは知らなかった。山森が修めた「対女拳」のことを。「対女拳」とは、女性のみにある「淫経絡」を突くことで、快感を自在に操る異端の拳法だった。


「さて、お次はここですぞ!」

 山森の指が、連続で乳房の周囲を突く。

(いけませんわ、このままでは・・・)

 官能の昂りに、恐怖が湧き出す。

(コネクションは諦めてでも、終わらせなければ)

 イレーナが膝をつこうとした、その瞬間だった。

「『喝ッ!』」

(なっ?)

 先程何度と聞かされた気合いが飛ばされた。途端に身体の自由がなくなってしまう。

「簡単に諦められては客も喜ばぬのでな。まだ耐えてもらおう」

 失神から覚めた護覚が再びリングへと上がってくる。

(ここで、とは・・・)

「呪縛」されたことで動きが止められてしまう。見えない束縛を解くよりも、山森の動きが速かった。

「ふぉほほ。では、一度高みへと昇ってもらいましょうかな」

 山森が両手の人差し指をぴんと伸ばし、イレーナの硬く立ち上がった両乳首を一気に突き潰す。

(こ、これは・・・ああっ、これはぁ・・・っ!)

「呪」で縛られたイレーナの腰がひくつき、頬が官能に染まる。それでも「呪」は解けず、イレーナは立ち尽くしたままだ。

「・・・ふぉほほ、達したようですな」

 下着の湿り気を確認した山森が大きく頷く。


 イレーナは知らなかった。意識を飛ばすほどの絶頂をすれば、「呪縛」が解けることを。持ち前の精神力が仇となり、山森の責めを耐えてしまったのだ。


「まあ、一度だけでは足りないでしょう。また達してもらいますからな」

 山森がこれ以上ないほどにしこり立った乳首を指で弾きながら、更なる昂りを予告する。

(い、今でさえ辛いと言うのに)

 山森の言葉に戦慄する。

「ふぉほほ、いきますぞ」

 山森の指が踊るたび、一気に官能が燃え上がる。全身を炙る炎は、イレーナを瞬く間に快楽の高みへと焚き上げる。

(ふっ、ぐっ、ぐぅぅ・・・っ!)

 淫経絡を突かれることで無理やり高められた官能は、イレーナを容易く絶頂させる。「呪縛」された身体では膝をつくこともできず、コネクションを諦めることもできない。

(ああっ、また・・・!)

 またも絶頂へと導かれてしまう。

「ふぉほほ、時間一杯、目一杯気持ち良くなってもらいますからな」

 山森がまたも淫経絡を突く。イレーナの身体はもう逆らうこともせず、ひたすら快感を享受していた。


(あぐぅぅぅ・・・っ!)

 八度目の絶頂へと叩き込まれた、次の瞬間だった。

「十分が経過しました。イレーナ選手、条件達成です」

 会場に放送が届き、それを合図に護覚が「呪」を解く。

「はぁぁ・・・」

 身動きができぬまま何度も絶頂へと達し、体力も限界にきていたイレーナが膝から崩れ落ちる。

「大丈夫か、イレーナ選手?」

 倒れ伏したイレーナを抱き起こし、レフェリーが介抱を始める。否、またも身体を弄(まさぐ)ってくる。

「・・・は・・・放し、なさい・・・あぅっ!」

 何度も無理やり絶頂させられた身体は疲労の極みにある。万全の状態であれば、歯牙にもかけないレフェリーの手を振り払うこともできない。

「お疲れさん。約束通り、コネクションを繋いでやるよ」

 一度言葉を切ったレフェリーが、イレーナの乳房を揉みながら笑みを浮かべる。

「<地下闘艶場>の支配者に、な。ベッドの上で直接、しっかりとお願いすることだ」

(なんということ・・・!)

 その言葉で、イレーナは事情を理解する。まさか、<地下闘艶場>側の狙いがイレーナの身体そのものだったとは!

 それならば、セクハラの数々を通じてイレーナの官能を高めていったのも理解できる。私設の護衛団の入場を拒み、引き離したのはイレーナを孤立させるためだろう。日本での裏の格闘試合などどうにでもなる、と甘く見すぎた。

 どれだけ悔もうとも、今のイレーナに抗う術はない。体力も、打ち続いた絶頂に奪われてしまった。強力なコネクションという餌をぶら下げられ、喰いついてしまった自分が腹立たしい。

 しかし、もう後悔も遅い。今のイレーナは、無力な羊に等しいのだ。

「まずは、楽しませてもらおうか」

 レフェリーの合図に、三人の男たちがイレーナへと圧し掛かってくる。

「やめ・・・んんん・・・っ!」

 男たちの手が、指が触れるたび、恐ろしいほどの快感が全身を走り抜ける。否、走り回り、積み重なっていく。

 そしてまた。

(あっ、ああっ・・・あはぁぁぁぁぁぁっ!)

 ペナルティのときに「対女拳」で昂らされた身体は、あっさりと達してしまう。

「もう入れ食い状態だな」

 イレーナが達したのを見て、レフェリーが嘲笑う。

「もうこいつを使うこともないだろう?」

 オープンフィンガーグローブが外され、放り投げられる。その間にも、護覚と山森によりセクハラは続いている。

(まずい、ですわ・・・このままでは・・・)

 イレーナの危惧を知ったかのように、レフェリーがイレーナの下腹部を撫で、更に手を下ろしていく。

「後は、こいつだけだな」

 レフェリーはTバックをつつき、その上から秘部を撫で回す。

「もうびちょ濡れじゃないか、ええ?」

 秘部を弄っていたレフェリーがにやつく。

(この男・・・)

 レフェリーの狙いはわかる。しかし、それを防ぐ体力は残っていない。

「濡れて気持ち悪いだろう? 今脱がしてやるからな」

 恩着せがましく言いながら、レフェリーがTバックの横紐を掴む。そのままゆっくりとずらし、イレーナの股間から下ろしていく。

「おなごが生まれたままの姿にされるのは、何度見ても善いものよな」

「ふぉほほ、それが気の強い女性であれば、尚のことですなぁ」

 護覚も山森も、イレーナの手足を押さえたままTバックが脱がされていくのをじっと見つめている。イレーナが太ももを閉じようとしても、それを邪魔してくる。

「やっぱり下の毛も銀髪だな。綺麗なもんだ」

 先程確認できなかったアンダーヘアをしっかりと見て、レフェリーが含み笑いを漏らす。しかしその手は止まらず、Tバックを下ろしていく。淀みなく進むTバックは太ももを過ぎ、膝を越え、とうとう足首にまで到達する。

「・・・これで、イレーナ選手のオールヌードが完成だ!」

 レフェリーの手により、Tバックが掲げられた。股下部分はこれ以上ないほど愛液に濡れ、照明に輝いている。巻き起こった大歓声に気分良く頷いたレフェリーが、Tバックを観客席に投げ入れる。落ち切る前に数え切れぬほどの手が伸ばされ、凄まじい争奪戦となる。

「イレーナ選手ほどの資産家だ、Tバック一枚くらいサービスしても構わないだろう?」

 レフェリーの、男性選手の、観客たちの視線の先で、銀髪の高貴な美女が、見事な裸体を晒して横たわっている。

(このような屈辱まで与えられるとは・・・)

 イレーナは唇を噛み、悔しさを紛らわそうとする。しかし、それにはまだ早かった。

「『御前』に抱かれる前に、しっかりと予行練習をしておかなきゃな」

 レフェリーの言葉に愕然とする。

「二人とも、イレーナ選手を膝立ちにしてくれ」

「うむ」

「ふぉほほ、了解ですぞ」

 レフェリーの指示に、護覚と山森はイレーナの背に手を回し、逆の手で豊かな乳房を揉みながら膝立ちとさせてくる。

「この腕を『御前』のモノだと思って、その大きい乳房で挟むんだ」

 レフェリーが真上に立てた右腕を、イレーナの谷間へと埋めてくる。

「う・・・あ・・・」

 しかし、イレーナに手を動かす力は残っていない。勿論、残っていたとしてもする筈はないが。

「仕方ない、護覚、山森、手伝ってくれ」

「ま、善かろうて」

「ふぉほほ、了解しました」

 護覚がイレーナの右手と右乳房を、山森がイレーナの左手と左乳房を持ち上げ、左右から寄せて上下に動かす。男たちの助力によるとは言え、自らの乳房で男の腕を挟み込み、自らの手で乳房を動かし、性技の訓練をさせられる。

「う、腕でもこんなに気持ち良いのか・・・」

 レフェリーは前屈みになり、腰を引く。

「情けない男よな、これしきのことで」

「う、うるさい」

 護覚の皮肉に、レフェリーは右腕をイレーナの谷間から抜く。

「次は、指を舐めろ。『御前』の大事なモノだと思ってな」

 言うが早いか、レフェリーは右手の人差し指と中指、薬指までをイレーナの口の中に突っ込んでくる。

「むぐぅっ?」

 いきなりのことに、イレーナは吐き気を堪える。

 そこに護覚がレフェリーへと声を掛ける。

「喰い千切られぬようにせいよ」

「お、恐ろしいことを言うな」

 慌ててレフェリーがイレーナの口から指を引き抜き、ズボンで拭く。

「ふぉほほ、では私が代わりましょう」

 今度は山森が左手の人差し指と中指をイレーナの口中へと入れ、前後させる。

(・・・それならば、お望み通りに噛み千切ってやりますわ)

 イレーナが顎に力を込めようとしたその瞬間、山森が首の左付け根を突いてくる。

「はあぁっ!」

 途端に顎から力が抜ける。と言うよりも、舌に触れられるたびに快感が生じる。山森が淫経絡により、舌の感度を引き上げたのだ。

「よし、山森、そのまま口内奉仕を教えてくれ。護覚、イレーナ選手の身体を少し持ち上げてくれ」

「仕方ないですなぁ」

「人使いが荒いの」

 文句を言いながらも、二人はレフェリーの指示通りに動く。

「よしよし、それじゃあ・・・」

 レフェリーはイレーナの下に潜り、自分の股間とイレーナの股間を密着させる所謂騎乗位の体勢となる。

「ほら、腰を揺するんだよ。『御前』をしっかりと楽しませなきゃいけないんだぞ?」

 レフェリーはイレーナの腰を掴み、前後に、或いは円を描くように、時には上下にと、腰の使い方をトレースさせる。

「ふぉほほ、こちらも覚えが良さそうです」

 山森は淫経絡を突きながら、イレーナの舌へと刺激を与えていく。

「善哉善哉、では乳肉の使い方も忘れぬようにせねばの」

 護覚はイレーナの背後からイレーナの両手を持つと、自らの両乳房を持たせてくる。そのまま先程のようなパイズリの動きを再開する。

(このような・・・このような真似を、させられる、とは・・・)

 イレーナの心とは裏腹に、イレーナの優れた感性が、淫らな奉仕の方法をも吸収しようとしている。

(ああっ、このような技術は、覚えたくない・・・覚えなくて良い、のに・・・)

 しかし、イレーナの唇は男の指を咥え、舌は指を舐め、両手は乳房を揉み回し、腰は淫らに揺れ、秘裂は愛液を零している。

 自分の身体が、淫らな技術を習得していく。望まぬ快楽に身を焼かれながら、男の欲望のための身体へと内側から作り変えられていく。

 イレーナの焦りなど気づこうともせず、男たちはイレーナの身体を堪能し続けた。


「A・・・Aa・・・」

 男たちから責められ続けているイレーナの口から、弱々しい喘ぎ声が零れる。

「・・・よし、二人とも一旦離れてくれ」

 レフェリーは何故か山森と護覚にイレーナから退くように言うと、厭らしい笑いを浮かべる。

「イレーナ選手、こういうのも体験しておかないとな」

 レフェリーは力の入らないイレーナの足を開かせると、またも股間を密着させ、正常位と呼ばれる態勢になる。そのまま腰を振り出し、この疑似性交に観客席が大いに沸く。

(好きでもない男に、このような真似をされるなんて・・・!)

 処女であるイレーナとは言え、性への知識は持っている。ズボン越しとは言え、自らの秘所に男の硬くなった物を擦りつけられてしまっている状況に怒りが沸く。

「Nn、Nn、Nn・・・」

 しかし、感情とは裏腹に口からは喘ぎ声が洩れてしまう。試合中のセクハラ、試合後のペナルティ、山森の対女拳などにより、敏感な箇所への刺激が快感を生んでしまうのだ。

「くくっ、たっぷりと濡れているぞイレーナ選手。しっかり気持ち良くなってくれているじゃないか」

 レフェリーは腰を振りながら、仰向けでも見事に盛り上がっている乳房を掴む。

「乳首もこんなに硬くなっているぞ? ええ?」

 レフェリーは乳房を揉みながら、乳首を弾く。

「Haau!」

「反応が良いな。これなら『御前』も喜んでくれるだろう」

 レフェリーは徐々に腰の動きを速くしていき、鼻息も荒くなっていく。

「うっ、ううっ」

 何かを堪えるようなレフェリーの背を、山森が軽く叩く。

「そろそろ代わってもらっても宜しいですかな?」

「・・・そうだな、それもいいか」

 口ではそう言いながらも、レフェリーは不満の表情を浮かべながらイレーナから退く。何故かその腰は後ろに引かれている。

「それでは」

 山森もイレーナの股間に自らの股間を密着させ、ゆっくりと前後運動を始める。

「ふぉほほ、こういうのも良いものですなぁ」

 山森はイレーナの淫核を刺激するように腰を動かし、確実にイレーナの快感を刺激する。

「ううぅっ、お退きなさい・・・」

 イレーナは快感を必死に堪え、山森を押しやろうとする。

「ふぉほほ」

「AAU!」

 しかし腹部の淫経絡を突かれ、力が抜けてしまう。

「まだ余力がありそうですなぁ」

「AAAO!」

 更に山森の指が踊り、淫経絡を突かれていく。

「ふぉほほ、では、こちらのお楽しみといきますかな」

 山森は快感に身体をびくつかせるイレーナの腰を掴み、ズボンの下で硬くなった股間をイレーナの秘裂に擦りつける。

「OH、A、AHAA・・・・」

 淫経絡で官能を昂らされたイレーナは、手を握り込んで耐える。それでも快楽の炎はイレーナを炙り続け、いつしか腰が揺らめいていた。

「ふぉほほ、そうです、我慢することはありませんぞ? 女性は素直が一番」

 山森の腰が徐々に動きを速めていき、それにつれて快楽係数も上昇線を描く。

(ううっ、いけませんわ、耐えねば・・・ならない、のに・・・っ!)

 そう思っても、腰の揺らぎは止まらない。

「ふぉほほ、素直が一番、と言った筈ですがなぁ」

 山森がイレーナの腰から両手を放し、両乳首を同時に弾く。それが決定打となった。

「AA、HAA、AHAAAAAA!」

「ふぉほほ、達しましたなぁ」

 イレーナの絶頂を契機として、山森がイレーナから退く。

「次は拙僧の番じゃな」

 今度は護覚がイレーナに圧し掛かってくる。

「『喝ッ!』」

(えっ?)

 何故か護覚がイレーナを「呪」で縛る。もう力も入らず、抵抗も厳しいと言うのに。

「知っておるかの? 愛しい男とまぐわうときに、おなごはこのように・・・」

 護覚は正常位の体勢のまま、イレーナの両脚を自分の腰に巻きつけていく。それは、イレーナが自ら護覚を求める恋人であるかのような形だった。

「相手を離すまいと、男の腰を抱え込むのよ」

 護覚自身はイレーナの腰を抱き、ゆったりとした前後運動を始める。

「手もこのように、の」

 護覚は一旦腰から手を放し、イレーナの両手を、護覚の首を抱えるように組ませる。

「うむ、善哉善哉」

 護覚は改めてイレーナの腰を持ち、密着させた股間を揺らす。

(屈辱ですわ・・・)

 護覚の首の後ろで両手を組まされたことで、護覚のにやけた笑みが眼前にある。顔を背けたくても体の自由は利かず、まさに恋人のように見つめ合っている。

「ふむ、こういうのはどうだな?」

 護覚はイレーナの背中に両手を回し、身体を完全に密着させる。しかも自分の顔がイレーナの豊かな乳房に当たるように位置し、そのまま腰を動かす。

(な、なんという下衆な真似を・・・!)

 イレーナの怒りも、高められた官能のせいで快楽に上書きされてしまう。

「では、極楽浄土へと旅立つが善い」

 護覚がいきなり強烈な腰の打ちつけを送り込んでくる。しかし、イレーナの身体はそれすら快感として受け入れてしまう。

 そして。

「A、AHAA、HAHUAAAAA!」

 イレーナの口から絶叫が放たれ、その身体がくたりと力を失う。達したことで「呪」が解けたイレーナの両手両脚が、リングへと落ちる。

「ふむ、また極楽浄土に達したか。善哉善哉」

 満足げに顎を撫でた護覚が、イレーナから離れる。

「・・・さて、最終確認といくか」

 しゃがみ込んだレフェリーは、イレーナの右乳房を揉みながらイレーナの右頬を軽く叩く。

「おい、起きろイレーナ選手。まだ終わりじゃないぞ?」

 レフェリーが右乳首を転がすと、長い睫毛に彩られたイレーナの瞼が薄っすらと開く。

「ん・・・あ・・・えっ・・・?」

 一瞬状況が呑み込めなかったイレーナだったが、レフェリーの手を払おうとする。

「Haan!」

 しかし乳首を捻られ、思わず仰け反る。

「どうだ? もう何をされても感じるだろう?」

 更にレフェリーは秘裂までも弄り始める。そこから聞こえる水音に、自分でも恥ずかしい程に濡れたことがわかってしまう。

「そんな厭らしいイレーナ選手を、もっと気持ち良くしてやるからな」

「・・・も、もう、快感は・・・いりま、せん、わ・・・」

 力の入らない身体を叱咤し、イレーナはレフェリーの手を振り払おうとする。

「そうか。それなら・・・」

 レフェリーはイレーナへの責めを止め、目を合わせてくる。

「<地下闘艶場>に・・・いや、『御前』に服従を誓うか? それなら止めてやってもいいぞ」

「そ、そんなこと・・・ああぅぅっ!」

 レフェリーの問いを拒もうとした瞬間、山森が淫経絡を突き、強烈な快感を発生させる。

「どうだ? 服従を誓うか?」

 レフェリーの再度の問いに、イレーナは唇を噛んだまま首を振る。

「まだ屈しないか。それなら、素直になるまで待つだけだ」

 レフェリーが顎をしゃくり、山森と護覚も責めに加わる。

 男たちの手が、舌が、顔を、乳房を、乳首を、腹部を、太ももを、尻を、秘裂を、淫核を、イレーナの全身を責め立てる。

「AOOO! AHAA、AAAAAU!」

 処女の身は既に快感に支配され、唾棄すべき男たちの責めにも反応してしまう。イレーナは喘ぎ、身を捩り、乳房を揺らし、腰を跳ねさせる。

(駄目、ですわ・・・もう・・・耐えられ、ませんわ・・・!)

 自らの身体が恐ろしい。どこまでも感じてしまう自分が恐ろしい。どこまでも変わっていきそうな恐怖に、イレーナは思わず叫んでいた。

「ち、誓います、誓いますからぁ・・・! もう、気持ち良くしないで・・・くださいぃ・・・!」

「やっと素直になったな、イレーナ選手」

 満足気に頷いたレフェリーが、他の二人にも合図を出して責めを止めさせる。

(ああ・・・やっと・・・終わり、ました・・・)

 横たわったまま喘ぐイレーナを、男たちが見下ろす。汗で銀髪が張りついた美貌を、呼吸に合わせて小さく震える豊かな乳房を、未だ尖ったままの乳首を、引き締まった腹部を、股間の陰りを、包皮が剥けて露わになっている淫核を、愛液を零す秘裂を。しかし、イレーナは身体を隠すこともできない。疲労で指すら動かせない。

「それじゃあ、最後に・・・」

 レフェリーが、下卑た笑みを浮かべた。

「山森、とっておきをくれてやれ」

(えっ、今なんと?)

 もう淫虐から解放されるのではないのか。言葉の意味は理解しているのに、心が認めようとしない。

「ふぉほほ、いきますぞ!」

 宣言した山森が、両手の指をぱきりと鳴らす。次の瞬間、山森の指が首の付け根に、両脇に、両方の乳首に、鼠径部に、そして淫核にめり込む。一撃ごとに二段飛ばしで官能が高まる。

(こんな・・・こんな、ぁ・・・)

 嵐の前の凪。しかし、嵐が来ることはわかっている。

「A・・・」

 もう駄目だ。

「Ah・・・」

 来る。来てしまう。今までの快感責めが児戯と感じるような、快楽の波が。

「・・・n、n、nnn・・・・!」

 最早声すら出ない。それでも身体は跳ね、僅かにでも快感を逃がそうと消耗しきった状態で足掻く。しかし足りない。全身を襲う快感の暴波が圧倒的過ぎる。

 今日一番の、否、生涯で一番の悦楽がイレーナを内側から焼き尽くす。

「N・・・A・・・AA・・・AAAAAAAAAA・・・っ!」

 そしてまた、快楽の絶頂へと辿り着いた。

(ああ・・・暗黒が・・・呼んでいる・・・)

 イレーナの意識はそこで途切れた。再び意識を取り戻すときにどのような運命が待つのか、今はまだ知らないままに。


 また今宵、修羅の祭壇へ供物が捧げられる。美しき生贄は、初めて受けた淫虐の数々に、か細い息を洩らしながらそのときを待つ。

 意識を失っても、その裸身は美しかった。



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