【特別試合 其の七十二 大炊環:小具足術】   紹介者:小師様


 犠牲者の名は「大炊(おおい)環(たまき)」。20歳。身長158cm、B87(Eカップ)・W58・H89。

 丸く人懐っこそうな目、小さめだがまっすぐ伸びる鼻梁、ふっくらした唇、ダークブラウンに染めた髪を腰まで伸ばし、ポニーテールにまとめている。

 大炊流武家故実宗家の家に、双子の弟と共に生を受けている。武術にも日本芸能にも才能を見せる環だったが、現在は馬術に力を入れており、世界大会を視野に入れるほど。

 その実力故か<地下闘艶場>から招待状が届き、環の側も世界大会のための馬への諸経費や、大学の馬場の改良などの資金を得たいがため、参戦を承諾した。

 そのリングが、淫虐を目的にしていることなど知る由もなく。


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(なんだか、嫌な雰囲気だね)

 中身の入った細長い袋を抱えて花道を進む環に、容赦ない野次が飛んでくる。しかも内容は卑猥なものがほとんどだ。

(愛馬のためとは言え、少し迂闊だったか)

 闘いは嫌いではないし、多額のファイトマネーは遠慮なく馬術関連に注ぎ込める。契約書もしっかりしていたため感心していたが、会場を支配しているのは澱んだ空気だ。

(勝てばいいだけさ)

 そう気持ちを切り替え、環はオープンフィンガーグローブを握り込んだ。


(なるほど、やっぱりね)

 リングに待っていたのは、レフェリーらしき蝶ネクタイの男と、対戦相手と思しき男性選手だった。

 環は持参していた長い袋を、入場前に確認した通りリング下に置き、小さく息を吐く。

(まともな試合じゃないんだね)

 それでも、リングへと続く階段を昇る環の足に乱れはなかった。


「赤コーナー、『働かない格闘家』、サンダー桝山!」

 環の対戦相手は、なんとも不健康な体形の男だった。汚らしい長髪、ぼうぼうと生やした無精ひげ。体には締まりがなく、もっさりとしている。

「青コーナー、『馬上の弓手』、大炊環!」

 自分の名前がコールされ、環は教えられた通りにガウンを脱ぐ。その下にあったのは、西洋のお嬢様のようなドレスだった。

 白を基調とした生地に青と水色が配色され、首まで覆い隠している。上着の袖は半袖で膨らみを持ち、下は膝丈のスカート、更にその下に足首まで隠す純白のスカートがある。

 この露出度の少ない衣装に場内からは不満の声が飛んでくるが、環もそれに同感だった。

(これだけ布を重ねられると、動きにくいんだよね。困るなぁ)

 手袋を模したオープンフィンガーグローブの装着具合を確かめながら、環は密かにため息を吐いた。


 レフェリーが桝山のボディチェックを終え、環に近づいてくる。

「さて、それじゃ今度は・・・おい?」

 ボディチェックを行おうとしたレフェリーを制し、桝山が環へと近づいてくる。

「今日は宜しく頼むぜ」

 桝山が右手を差し出してくる。

(ま、握手くらいは良いか)

 まだ試合は始まっていない。正直、不潔な男の手を握りたくはないが、握手を拒んで精神的な不利を作りたくない。

「・・・宜しくお願いし・・・っ!」

 桝山の緩んだ体を視界に入れたくなく、少し視線を外して握手に応じた環だったが、いきなりその手が引っ張られ、後頭部を抱え込まれた。しかもそれだけではなく、唇を塞がれていた。桝山の唇で。

「んっ、んんぅぅっ!?」

 突然のことに、環は狼狽えていた。左手で桝山を押し離そうとするも、がっちりと頭を抱えられていることでそれも難しい。

 観客も同じく呆気にとられていたが、徐々に興奮が高まっていく。美少女が不潔な男に無理やり唇を奪われている光景に、すかさず野次や指笛が飛ぶ。

「・・・おっとっと、ボディチェックをしないといけないな」

 こちらも驚いていたレフェリーだったが、好機とばかりに環の肢体に手を這わせる。

「立派なお尻をしてるじゃないか、ええ?」

 レフェリーは環のヒップを撫で回し、更に揉んでくる。桝山はキスをやめ、環の唇を舐め回してくる。

「次はおっぱいだな」

 レフェリーの手がヒップから離れ、環のEカップバストを揉んでくる。

(こいつら、なんてことをするんだ!)

 酷いセクハラへの怒りに、混乱が追いやられていく。

「おいレフェリー、ちょっと手を退けろ。俺がおっぱいを触るから」

「まあ待て、もう少しおっぱいのボディチェックを続けるから」

「いいから退けろよ」

 男たちが醜い言い争いをし、桝山の体が少し離れる。

(いいかげんに・・・しろっ!)

 ようやくできた隙間を利用し、桝山の股間に膝蹴りを入れる。同時にレフェリーの手を振り払い、二人から距離を取る。

「ちっ、逃げられたか」

 舌打ちしたレフェリーが、蹲ってしまった桝山の様子を伺う。

「おい桝山、大丈夫か?」

「うぐぐ・・・ファールカップの上からだったから、まだマシだが、痛いのには変わらないからな」

 立ち上がった桝山は、軽いジャンプを繰り返す。

「・・・よし、いけるぞ」

「そうか、それでは、ゴング!」


<カーン!>


 レフェリーが試合開始のゴングを要請し、正式に試合が始まる。

(参った・・・いきなり余計な体力を消耗しちゃったよ。しかも、乙女の唇になんてことしてくれるんだ!)

 試合の緊張感、羞恥、怒りなどが綯い交ぜとなり、唇を乱暴に拭った環の胸中にどす黒いものが渦巻く。

「くそっ、まさか金的蹴りをしてくるとはな。なにが良家のお嬢様だ」

 股間の痛みから回復した桝山が、環を睨みつける。しかし環のほうは表情も変えない。

「・・・ふん、なかなか美味い唇だったぞ?」

 桝山の挑発も、環の眉を動かすことすらできない。

「次は、その胸を堪能するとするか」

 更なる挑発も、環の心には届かない。

 馬術を行う者の中にも、悲しいかな下世話な話題で環と関わろうとする者が居る。環ほどの美貌を持つ美少女にはそんな男たちが群がり、似たような言葉を吐いてくる故に、桝山程度の言葉で動揺するほど初心ではない。

「ちっ、少しは会話を楽しめよ!」

 勝手な憤りを吐き捨てた桝山が、腰高のタックルに来る。しかし、環の身体に触れもできない。

「くそっ!」

 今度は右手を振り抜くが、これも環には届かない。鍛錬不足の桝山が、まともに闘って相手になるほど環は弱くない。

「くそがぁぁっ!」

 桝山が右手でのラリアートで突進する。しかし、寸前で環が掻き消えた。桝山にはそう見えた。

 環はゆるりとした動きで桝山の左側に回り込みながら、桝山の左膝下を蹴っていた。桝山の姿勢が崩れた瞬間、桝山の左腕を本人の背中側に巻き込み、腕緘(うでがらみ)を極めていた。

「よくも乙女の唇を汚したね・・・天誅!」

「ぐあああっ!」

 容赦なく引き絞られる腕緘に、桝山が堪らずタップする。


<カンカンカン!>


「・・・ふん!」

 ゴングが鳴らされ、環は鼻息荒く腕緘を解く。いっそ腕を折ってやろうかとも思ったが、ファイトマネーから治療費を引かれても嫌だ。そのため強めの痛みを与える程度に留めている。

 しかし痛みに呻く桝山は担架に乗せられ、そのだらしない体を運ばれていく。

(さて、次は武器戦だったね)

 環はリング下に持って来ていた袋を取りにリングを降りようとするが、それをレフェリーが見咎める。

「おいおい大炊選手、今からまた試合だぞ」

 先程ボディチェックと言いつつ自らの身体を触り回してきたレフェリーに、剣呑な視線をぶつけながら環は言い返す。

「だから、武器を取ろうと・・・」

「武器はこっちの用意したものを使ってもらう。ほら、これだ」

 レフェリーが黒服から弓を受け取り、環に手渡してくる。

「・・・」

 愛用の弓ではなく、既製品の使用は想定外だった。手に馴染むまでにどう立ち回るか、精神的な負担がまた一つ増えた。

「お、来たか」

 レフェリーの言葉に、環も顔を上げる。花道を進んでくる次の選手は、剣道着をだらしなく気崩し、楊枝を咥えた男だった。

 男が近づいてくるたび、野獣のような殺気が環にぶつかってくる。それでも環は動揺を見せず、弓の感触を確かめていた。


「赤コーナー、『暴剣』、浦賀餓狗郎!」

 武器戦の相手は、浦賀(うらが)餓狗郎(がくろう)だった。身長差以上に大きく感じるのは、その気当たりのせいだろう。

「青コーナー、『馬上の弓手』、大炊環!」

 コールを受けている間も、環は弓の感触を確かめ続けている。浦賀ほどの選手が相手であれば、少しでも早く手に馴染ませておく必要がある。

 武器戦のためボディチェックはなく、すぐに試合が始められる。


<カーン!>


「今回のお嬢ちゃんは、身体の線がわかりにくいもん着てるな」

 楊枝を吹き捨てた浦賀が、環の全身を舐め回すように見てくる。その欲望の視線にも環はたじろがない。

「ま、脱がしちまえば一緒か」

 肩に竹刀を担いだまま、浦賀がふらりと前に出てくる。

「っ!」

 恐ろしい速度で竹刀が襲い掛かってきた。危うく反応し、後退して躱す。しかし、浦賀の竹刀が真っ直ぐに伸びてくる。

 避けても間に合わない。浦賀の竹刀を弓で受けた瞬間だった。

「あっ!」

 なんと、弓が真ん中からへし折れたのだ。この事態に、一瞬思考が止まった。

「らぁっ!」

 鳩尾、臍、下腹部。三か所への突きの連打に、環は堪らずリングに崩れ落ちていた。

「もうお終いか? まだだよなぁっ!」

 しかし、更なる追撃が加えられる。

「ぐはぁっ!」

 背中への容赦ない打撃。これで肺から空気が絞り出されてしまった。

「はっ、ふっ、うぅっ・・・」

 身体を横に倒し、少しでも楽に息を吸おうとする。

「どうした? もうお寝んねか?」

 浦賀が竹刀で環の胸を押す。

「おっ、意外とデカいおっぱいしてるな。後で脱がすのが楽しみだぜ」

 浦賀は環の左胸をぐりぐりと押し込むと、今度は竹刀でスカートの裾を捲る。

「ほら、早く立たねぇと、パンツも見せちまうぞ?」

「ぐっ、ううっ・・・」

 スカートを押さえ、立ち上がろうとしたときだった。

「うぐぇっ!?」

 腹部に横薙ぎの一撃。浦賀の容赦ない胴打ちに、環は吹き飛ばされていた。

「おっと、強過ぎたか? ま、鍛えてるみてぇだから大丈夫だろ」

 竹刀を放り出した浦賀は環に馬乗りとなり、胸を揉みだす。

「服の上からでも、おっぱいの形が良いのがわかるな。生乳にしたときが楽しみだぜ」

 その感触に舌舐めずりしながら、浦賀は環の胸を揉み続ける。

「浦賀、俺も大炊選手のおっぱいを・・・」

「ああ、後で変わってやるよ」

 レフェリーが伸ばした手を跳ね除け、浦賀は一人で環の胸の感触を楽しむ。

「よし、それじゃ次は・・・」

 浦賀は環の胸を揉みながら立たせ、ロープへと連れて行く。そのまま環を観客席へと向ける。

「さて、お次はロープで支えてやるよ」

 浦賀はレフェリーに手伝わせ、環の両手をトップロープとセカンドロープの間に絡めてしまう。その下に環の頭を突っ込ませ、更に折れた弓の弦を使って環の腕とロープが離れないようにしてしまう。

 そして浦賀はスカートを環の腰まで捲り上げると、ヒップを撫で回す。

「おっ、意外としっかり締まった肉がついてるじゃねぇか。馬に乗ってるって話だったな、それか?」

 浦賀は満足そうに、環のヒップを下着の上から揉みだす。

「ま、尻も良いが、こっちのほうがもっと良いけどな」

 環のヒップから手を滑らせ、浦賀は環の秘部を弄り始める。

「な、なあ浦賀、そろそろ俺にも・・・」

「ああ、また後でな」

 レフェリーの要求を、浦賀はあっさりと受け流す。

 男たちの勝手な言い分に、ふつふつと怒りが沸き上がる。

「人の身体を・・・玩具に、するな・・・!」

 環の言葉に、浦賀が皮肉な笑みを浮かべる。

「そうかい。そんな減らず口が叩けるなら、遠慮はいらねぇな!」

 浦賀の手がドレスの胸元に掛かったかと思うと、胸元の布地が引き裂かれ、ブラが露わとされた。

「どれ、さっそく」

 浦賀がブラの上から環の両胸を掴み、揉んでくる。浦賀が胸を大きく揉み回すたび、環のブラの肩紐がずり落ちていく。それがまた扇情的で、観客の視線を奪う。

「ブラが邪魔だな」

 ブラが引き摺り下ろされ、Eカップの乳房がまろび出る。

「っ・・・」

 乳房や乳首に粘りつく男たちの視線が嫌で、顔を背ける。

「やっぱり、おっぱいは生で揉むに限るな」

 浦賀は剥き出しにした乳房を両手で持ち、ゆっくりと揉み立てる。しかし、それだけでは終わらない。

「こういう経験はあるかい、お嬢ちゃん?」

 浦賀は環の両乳房を揉みながら、股間を秘部へと擦りつけてくる。

「っ!」

 疑似的とは言え、バックスタイルで嬲られることに屈辱と羞恥を感じてしまう。それでも声は出すまいと、唇を噛みしめる。

「くくっ、こうしてると、お客の前で犯してるみたいだな。なかなか乙なもんだ」

 浦賀は環の左乳房を揉みながら乳首を転がし、右手で手綱のようにポニーテールを引っ張りながら、股間を秘部に擦りつける。

「なあ浦賀、少しは変わってくれても・・・」

「ああ、後だ、後。後でな」

 浦賀はレフェリーへ適当に答え、環の乳房、乳首、ヒップ、秘部の感触を堪能する。

「くっ、うっ、うぅっ・・・」

 衆人環視の中、乳房を好き放題に弄ばれ、まるで後背位のような形で股間を擦りつけられる。屈辱が胸を焼く。

 欲望の視線が突き刺さる。その中で、一際粘つく視線を感じる。

 そのとき、環は気づいた。あの男が、目の前に居た。


 その男は以前、大炊家に勤めていた男だった。しかし他の女性使用人に淫らな行為をしようとするなど、素行不良により解雇された。

 その後、環は自分の馬に悪さをしようとしていた男を偶然見つけ、撃退したことがある。それがこの解雇された男だった。


 不意に環は理解した。どんな伝手かは知らないが、この男によって、今回環に食指が伸ばされたに違いない。

(ずっと、見ていた・・・!)

 環が闘う様も、環が勝つ様も、環が辱められる様も・・・あの男の表情は、愉悦に歪んでいた。

 かっ、と頬が熱を持つ。しかし、反射的に大炊流の教えが思い出されていた。


「焦りを生むことなかれ 動揺することなかれ 勝機は非常時の平心にあり」


(そうだった・・・焦りも動揺も、勝利への障害だ。ただ平らな心でもって闘うだけだ)

 乳房を揉まれることを、乳首が弄られることを、秘部へ逸物を擦りつけられることを、その様を見られることを、意識の外に追いやる。

「すぅぅぅぅぅっ・・・」

 目を半目にし、静かに息を吸う。

「ふっ!」

 鋭く呼気を吐きながら、ロープと弓の弦の戒めから脱力させた両手を引き抜く。引き抜く勢いを利用し、背後へと肘打ちを放つ。

「っとぉ」

 しかし浦賀も軽く躱し、コーナーポストに立てかけていた竹刀を握る。

「やるじゃねぇか!」

 即座に振られた竹刀を、環は危うく回避する。

 ロープから抜け出すことに精一杯で、衣装を整えることもできない。もしそれで隙を作れば、また浦賀から叩きのめされるのは目に見えている。

 乳房を隠すこともできず、素手で浦賀に対峙する。

「逃げられたのなら仕方ねぇな」

 浦賀の余裕は崩れない。

「捕まえなくても、こうして遊べばいいだけだからな」

 浦賀が目にも止まらぬ突きを繰り出す。

「っ!」

 竹刀の先が突いたのは、右乳首だった。しかも痛みを感じないような強さで。

 浦賀の竹刀が繰り出されるたび、右乳首が、左乳首が、股間が、様々な角度からつつかれる。

(完全に、遊ばれている!)


 剣道三倍段、という言葉がある。例えれば剣道の初段を持つ者は、無手の武道の初段を持つ人間よりも三倍は強い、という意味だ。これは武器の有用性を表す言葉として有名だ。


 環の武器である弓が壊れた以上、環は素手で闘うしかない。ならば浦賀が有利なのも当然だろう。

(せめて、いつもの弓なら・・・!)

 愛用の弓ならば、耐久力もわかっている。浦賀の一撃を受け止めるのではなく、受け流すことができた。

 すぐそこにある弓に思考を飛ばす環を、浦賀の竹刀が襲う。

「そらそら、乳首もアソコもがら空きだぜ。恐けりゃ縮こまって許しを請えよ。そうすりゃあ、たっぷりと可愛がってやるぜ」

 浦賀の冗談交じりの諧謔と共に、またも乳首が、秘部がつつかれる。

「乙女の身体を、つつくしかできない剣道? そんなもの、恐れるまでもない!」

 環の挑発は、強烈な返答を呼んだ。

「口が悪いな、お嬢ちゃん!」

「えぐっ!」

 容赦ない突きが腹部を抉った。この一撃に、環はリングへと転がった。否、突きの勢いを利用し、リングの下へと転がり下りた。

「うぅっ・・・」

 とは言え、突きのダメージが消えたわけではない。ある程度は逃がしたものの、まだ衝撃は残っている。

「・・・ふぅぅぅっ、すぅぅぅぅぅっ、ふぅぅぅっ・・・」

 大炊流独自の呼吸法で息を整えながら、服装も整える。ブラが丸見えのままだが、これは仕方ないと割り切る。

「ワーンツースリーフォー・・・」

 環が休むと見て、レフェリーが高速で場外カウントを取り始める。環は慌てず、自分が持ち込んだ袋の口を解き、愛用の弓を取り出す。

「フィフティーンシックスティーン・・・」

「今戻ります」

 弓を携え、リングに戻る。その間、浦賀は竹刀を右肩に担いだまま突っ立っていた。

「これで条件は五分だな」

 その余裕が腹立たしい。しかし、怒りのまま闘って勝てる相手ではない。既製品とは言え、弓を竹刀の一撃で折って見せたのだ。

(でも、この弓なら!)

 今まで使い込んできた愛用の弓ならば、まだ勝負ができる筈。弓を構えた環に、浦賀がゆらりと踏み出す。

「自前の武器使うんだ、ちったぁ楽しませろよ・・・!」

 大振りだと言うのに凄まじい速度で竹刀が迫る。しかし環は弓の先端で、柔らかく竹刀をいなす。

「くぅっ!?」

 しかし、竹刀をいなしても、僅かに衝撃が残った。このままの状況が続けば、ただでさえ残り少ない体力が削り取られかねない。

(・・・よし!)

 ならば、すべてを躱してみせる。改めて覚悟を決めた環は、精神を一段深い集中へと研ぎ澄ます。

「なんだ、雰囲気が変わったな?」

 それでも浦賀の余裕は崩れない。目にも止まらぬ突きが繰り出される。

 しかし先程までとは違い、その突きが環に届かない。掠ることはあっても、直撃はしない。

 環は、浦賀の攻撃をもう何度も見た。浦賀との実力差があるとは言え、環もまた天賦の才を磨いてきた武人なのだ。

「ちぃっ、このアマ!」

 竹刀が当たらなくなったことに浦賀が苛立つ。その苛立ちが生じさせたのは僅かな隙だったが、今の環にはそれで充分だった。

「シィィッ!」

 鋭い呼気と共に連段突きを放つ。この攻撃に、残った体力と集中力をすべて注ぎ込むために。

「乙女の敵には、こうだっ!」

 連段突きから浦賀の膝裏を薙ぎ、最後にとどめとばかりにこめかみを打ち抜く。

 容赦ない急所への直撃に、然しもの浦賀もリングへと倒れ込んだ。これにはレフェリーも慌てて試合を止める。


<カンカンカン!>


 環の勝利を告げる鐘が鳴らされる。その瞬間、緊張の糸が切れた環は膝から崩れ落ちる。リングにぺたりと座り込み、弓すらリングに置き、荒い息を吐く。その間に、浦賀は担架で以て退場させられていった。

「おいおい、大丈夫か、大炊選、手・・・」

 ここぞとばかりに近寄り、環の胸に手を伸ばそうとしたレフェリーに視線を向ける。

 環は何も言わない。ただ、今自分に触ればどうなるのか、その思いを込めてレフェリーを見据える。

「あ、いや、その・・・大炊選手、お疲れ様だったな」

 その視線のあまりの鋭さに、レフェリーの腰が引け、後ずさり、逃げるようにリングを降りて走り去っていった。

「・・・ふう」

 ようやく全身の力を抜き、呼吸を整えようとする。闘いの消耗だけでなく、色責めでの消耗も激しい。それでも勝利を挙げた。いつまでもここに居る訳にはいかない。

 環は膝に手をかけ、ゆっくりと立ち上がろうとする。

「このままじゃ終われねぇんだよ!」

「えっ・・・あぐっ!」

 立ち上がりかけた環だったが、背後からのタックルで吹き飛ばされる。

「くそっ、まだ左腕がいてぇ。この痛み、お前の身体にたっぷりと返してやるからな」

 環に圧し掛かったのは、第一戦で敗れた筈のサンダー桝山だった。

「あ・・・うう・・・」

 連戦をこなしただけでなく、数々の色責めをも加えられたことで、環の体力は限界だった。倒れたまま起き上がることができない。

「お誂え向きに体力切れか。こいつは楽しめそうだ」

 桝山が、自分の唇を舐める。その両目は欲望に光り、環の肢体へと釘付けになっている。

「だが、油断はできねぇからな」

 桝山は短いほうのスカートを引き裂き、その布で環の両手首を縛る。更には長い白のスカートも脱がして破り、環の両足首を縛る。

「これで、抵抗も逃げることもできねぇだろ」

 桝山は早速とばかりに、環の胸をブラの上から揉み始める。

「お嬢さん育ちらしいが、いや、お嬢さん育ちだからか? 形の良いおっぱいしてるじゃねぇか」

 身も心も醜い男に、胸の形を褒められても嬉しい筈がない。

「触って確かめるのもいいがよ・・・」

 桝山がにやりと笑う。

「そら、生乳だ!」

 桝山は環のブラをずらし、乳房を剥き出しにする。再び露わとなった環の乳房に、リング内外の男たちの視線が集中する。特に一際凄まじい欲望の視線が、観客席の一枠から飛ばされる。

「おう、こりゃまた・・・」

 そう言ったきり、桝山は環の乳房に見入る。

 環の乳房は、柔らかな丸みを帯びた形と言い、肌以上に白い色と言い、頂点に色づく可愛らしい乳首と言い、どこを見ても一級品だった。

「・・・たまらねぇ!」

 しかし、それ故に男の欲望の対象となってしまう。

 桝山は両方の乳房を握り、ゆっくりと揉み上げながら乳首を交互に舐めしゃぶる。

「そら、乳首が硬くなったぞ? 嬉しいか?」

 桝山は両乳首を指で扱きながら、環の顔を見つめる。環は睨み返すが、乳首を扱かれるたび、声を出すまいと唇を噛みしめる。

「へへっ、そそる表情しやがって」

 桝山は環の形の良い顎を掴み、無理やり唇を奪う。それだけでは終わらず、口の中に舌を入れてくる。

「んっ、んんんっ!」

 顎を押さえられているため噛みつくこともできず、口内を桝山の舌で蹂躙されてしまう。歯の一本一本までも丹念に舐め上げられ、更には汚臭のする唾液までも注ぎ込まれる。

「んぶっ、んぶうぅぅっ!」

 吐き出そうにも、出口である唇は桝山に塞がれている。しかし大量に注ぎ込まれた唾液で息もできない。となれば、採れる手段は一つしかない。

 環の喉が、こくり、こくり、と動く。悪臭を堪え、桝山の唾液を飲み込んでいるのだ。

「くくっ、お嬢様が、俺の唾を飲みやがった!」

 それを知った桝山が大きく笑う。その隙に、環は思い切り空気を吸い、咳き込む。

「どうだ? 俺の左腕の痛みのお礼は? ええ?」

 またも環の顔を舐め回し、桝山が笑う。

「・・・乙女に、こんなもの飲ませるなんて・・・このド変態!」

「言うじゃねぇか、お嬢さん」

 環の言葉に、桝山の表情が強張る。

「そんだけ言うんだ、覚悟はできてるよな?」

 そして、環の下着を掴んだ。

「な、なにやって・・・!」

 桝山が下着を下ろそうとするが、環は太ももを閉じ、必死に抗う。

「無駄な抵抗しやがって」

 桝山は鼻で笑うと、左乳首を擽ってくる。

「ひぅっ!」

 予想外の箇所への刺激に、環の力が抜けてしまう。

「そら!」

「あっ!」

 その隙に、下着をずらされる。しかし太ももから下ろすまではさせずに耐える。

「そ、それ以上はさすがに・・・!」

「なんだ、今更謝ってもおせぇからな。そら」

「ふわぁっ!?」

 鼻を鳴らした桝山は、環の左乳首に振動責めを加え、下着を膝までずり下げる。

「あああっ!?」

「くくっ、焦ってやがる」

 狼狽える環に留飲を下げた桝山だったが、環の両足首をきつく縛ったため、それ以上は下ろすことができない。

「ちっ、しまったな、下着を取ってから縛れば良かった」

 舌打ちした桝山だったが、衣装で作った即席の紐を外そうとはしない。

「まあ仕方ねぇ、ずらせるだけずらすか」

「ううっ、これ以上は・・・」

「まだ頑張るのかよ。だが、まあいいか」

 できた隙間から、桝山が指を入れてくる。

「ううっ・・・んんんっ!」

 太ももを擦り合わせることで指を拒もうとするが、防ぐことはできず、秘裂を直接弄られてしまう。

「くくっ、やっぱりもう濡れてるじゃねぇか」

 桝山がわざと音をさせながら、指を往復させる。

「くぅっ・・・絶対、許さない・・・乙女の大事なところを触るなんて・・・んんうぅっ!」

「けっ、どんなに息巻いたところで、お前は抵抗できないんだよ」

 桝山は環の秘裂を弄りながら、またも環の顔を舐めていく。しかも顔だけでは終わらず、首筋を舐め、鎖骨へと下り、胸の谷間を舐め始める。

(気持ち、悪い・・・!)

 気色悪さに身を捩る環の反応に気を良くしながら、桝山は環の両乳房を左右から寄せ、谷間を舐めながら乳房の感触を味わう。

 やがて右乳房だけを舐め始め、全面を唾液塗れにしてしまう。

「くくっ、またこいつを舐めてやるからな」

 そう言って右乳首を扱き、そのまま吸いつく。

 同様に左乳房も舐め、左乳首を吸い上げると、今度は腹部を舐めだす。鍛えられて引き締まった腹部の上に、薄っすらと脂肪が乗った環の腹部は、そこだけでも美しい。

 桝山は腹部全体を舐め回し、鳩尾、臍まで舌で責め、脇腹までも舐めていく。

 桝山は環をうつ伏せにすると、残っていたドレスを破り取る。そして、露わとなった背中にも舌を這わせていく。

「邪魔だな」

 その途中、ブラのホックを外す。そのまま、環の滑らかな背中を舐め回していく。

 桝山の舌は上へと向かい、項を舐め回す。今度は下がっていき、右脇、左脇、また背中から腰、そして尻へと到達する。

「へへ、美味そうな尻だぜ」

「や、やめろぉ、噛むなぁ・・・!」

 桝山は環のヒップを甘噛みしながら、軽くついた歯型の痕を舐めていく。そのまま尻たぶへと進み、更に太ももの裏側を舐めていく。

 今度は太ももの前側を舐め上げていくと、恥骨、下腹部と舐め、また腹部を通り、右乳房へと到達する。そこから螺旋を描くように、右乳房を裾野から頂点に向かって舌を向かわせる。

 更に両乳房を揉みながら、右乳首を舐め回していく。

「やめろぉ、こんな、汚いこと・・・!」

「へへっ、うるさい口だぜ」

「んんんっ!?」

 再び増山が環の唇を塞ぐ。

 環の嫌悪の声すらスパイスとして、桝山は舐め責めを続けていった。


 ほぼ全身を桝山の唾液塗れにされてしまった環は、既に気息奄々となっていた。

「へへへ・・・俺の舌で、お嬢さんの全身を舐め回してやったぜ」

 環の右乳房を揉みながら、桝山が舌舐めずりする。

「それじゃ、次はロープ磔で遊ぶとするか。そして最後はアソコを・・・」

 もう環の抵抗はないと見て、桝山が立ち上がりかける。その瞬間、環の目が光った。

 素早く上体を起こすと、縛られた両手を桝山の頭の上から通し、布地を桝山の喉に当てる。そのまま後ろに倒れ込みながら両膝を桝山の背に当て、引き絞る。

「ぐあぅ、わぐぅ、ぐぎぎ・・・」

 桝山はどうにか布を外そうとするが、外れないようにしっかりと結んだのは桝山本人だ。

「乙女の全身を舐め回すだけじゃなく、大事なところにまで直接触れてくるとは・・・その罪、万死に値する!」

 残った体力をすべて振り絞り、桝山に制裁を加える。

 もがいていた桝山が徐々に動かなくなっていく。完全に動きを止めたとき、環はようやく桝山の首から手を抜いた。そして、口の中に残った汚辱感のために、何度もえずく。

 それでも気持ちを切り替え、退場することに決める。

(あとは、これを外して・・・)

 足を縛める布地の結び目を解こうとするが、まるで解ける気配がない。

(どれだけきつく縛っているんだ!)

 疲労もあり、衣装で作られた簡易紐を外すことができない。

 両手も纏めて縛られているため、手首の結び目に指が届かない。

 はしたないが噛みつこうとしても、結び目が外側にあるため歯が届かない。

 更には手が自由に動かせないため、下着を戻すこともできない。

(ぐうぅぅっ・・・仕方ない、か)

 紐を外すことは諦め、愛用の弓を抱えてリングの下へと転がり下りる。弓を持ってきた袋へと押し込み、口も縛らずに抱え込んで、慎重に立ち上がって花道を進む。

 どんなに急ごうとしても、両手首両足首を縛められた環は少しずつしか進めない。上手く進めないため、時折乳首や秘部が覗くのが、観客の欲望を煽る。

 必死に身体を隠しながら退場していく環に、卑猥な野次が一層降り注いだ。



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