【第二十話 稲角瑞希:ジークンドー】

 犠牲者の名は「稲角瑞希」。17歳。身長162cm、B86(Dカップ)・W62・H88。太い眉、大きな瞳のボーイッシュな魅力を持つ勝気な高校生。髪型はボブカットで襟足だけ伸ばし、三つ編みにしている。
 幼い頃に「燃えよドラゴン」を見て以来ブルース・リーに憧れ、15kmも離れたジークンドー道場へと通っていた。左頬にうっすらと真横に走る傷があるが、これは高校一年のとき、近所を走り回る暴走族が五月蠅いからとヌンチャクを手に殴り込みをかけ、メンバーの男6人を病院送りにしたときにナイフで切られた跡である。その武勇伝を聞きつけた<地下闘艶場>の運営委員会から出場を依頼され、自分の実力を試すチャンスだと二つ返事で引き受けた。<地下闘艶場>が堕淫地獄だとは知らぬままに。


「こ、こ、これは・・・」
 瑞希に用意された衣装はカンフー着だった。ただし普通のものに比べて圧倒的に面積が少ない。上着は袖がなく、丈が鳩尾までしかない。ズボンは裾が広がったタイプで、側面にスリットが入れられ、申し訳程度に紐がついている。激しく動くと紐が切れないか心配になる。
「凄い衣装を用意するって言ってたけど、こういう凄いのだとは思わなかったよ」
 左頬の傷を掻きながらぼやく。しかし、勝てば百万のファイトマネーは魅力的だ。覚悟を決めて衣装を身に着け、あとは静かに入場の合図を待った。

 リングで待っていた対戦相手は男性だった。
(なるほどね、簡単に百万円はくれないわけだ)
 瑞希は一人納得し、リング上で対戦相手と向かい合う。相手はアステカ文明の文様をモチーフにし、目、鼻下、口元、耳が出たマスクを被り、ズボンタイプのレスリングタイツを身に着けている。よく日に焼けた体、背はそれほど高くないものの、絞り込まれた筋肉と立ち位置の重心が手強い相手であることを感じさせる。
「赤コーナー、ミステリオ・レオパルド!」
 コールに後方抱え込み宙返りで応えるミステリオ・レオパルド。打点の高い宙返りはミステリオ・レオパルドの身体能力の高さを示している。
「青コーナー、『ミス・リー』、稲角瑞希!」
 瑞希はくるりと振り返るとコーナーポストに向かってダッシュし、ポストを蹴って宙返りを決める。このパフォーマンスに観客から拍手が起き、ミステリオ・レオパルドも瑞希に拍手を送る。
「やるなぁ姉ちゃん、こいつは楽しくなりそうだ」
 不敵に笑うミステリオ・レオパルドに対し、瑞希はミステリオ・レオパルドを指差してアピールする。
「楽しむだけじゃ終わらないからね!」
 瑞希の口元にも、小さな笑みが浮かんでいた。

「稲角選手、ボディチェックだ」
 ミステリオ・レオパルドのボディチェックを終えたレフェリーが瑞希に近付く。その視線が厭らしいことに気付いた瑞希はハイキックを目の前で放ち、顔の前で寸止めする。
「変なことしたら、今度は当てるよ?」
「ぬぐっ、へ、変なことなどせんよ」
 機先を制され、レフェリーがどもる。仕方なく普通のボディチェックをし、ゴングを要請する。

<カーン!>

「ほぅぁぁぁ!」
 ゴングと同時に雄叫びを上げた瑞希が、短い助走から飛び蹴りを放つ。ミステリオ・レオパルドはいきなりの奇襲に驚くが、しゃがむことで飛び蹴りをかわす。しかし瑞希はコーナーポストを蹴って三角飛びから蹴りを出し、上体を起こしたミステリオ・レオパルドの背中を蹴ってダウンを奪う。
「あいてて、油断した!」
 立ち上がろうとしたミステリオ・レオパルドだったが、瑞希の追撃が襲い掛かってくる。
「せい、はっ、ほぁたぁっ!」
 瑞希は鋭い蹴りのコンビネーションを叩き込んでいく。ミステリオ・レオパルドは完全に避けることは出来ず、ガードすることで耐える。コンビネーションの隙間にローリングソバットで割り込み、なんとか連撃を止めて距離を取る。
「姉ちゃんごめんな、舐めてたよ。こっから本気で行くけど悪く思うなよ?」
「本気上等! こっちだって全力で行くよ! あと、ボクの名前は瑞希だ、姉ちゃんじゃない!」
「うっし、それじゃあ瑞希、いくぜぇ」
 お互いに向かい合い、軽いステップでリズムを取り、隙を窺う。先に動いたのはミステリオ・レオパルドだった。ノーモーションでローリングソバットを顔面に放ち、瑞希が仰け反ってかわしたところに水面蹴りを放つ。瑞希は仰け反った反動を使って後方へバク転を決めてこれをかわす。華麗な技の攻防に、観客から賞賛の拍手が湧く。
「へぇ、あれをかわすかよ。まだまだギアを上げても大丈夫そうだな」
 嬉しそうに笑ったミステリオ・レオパルドがロープへと走り、セカンドロープを使ってダイビングボディプレスを放つ。
「その程度の技っ!」
 瑞希はサイドキックで迎撃を狙ったが、ミステリオ・レオパルドはその蹴り脚を掴み、体を回すことで投げを打つ。
「くっ!」
 そのまま踏ん張れば蹴り脚を折られかねない。瑞希は逆らわずに投げられる。受身を取って立ち上がったが後ろを取られ、膝裏を蹴られて両膝をつかされる。ミステリオ・レオパルドは瑞希の膝裏を踏みつけ、両顎を持ったまま後ろに倒れる。瑞希の体はミステリオ・レオパルドの膝でくの字に折れ曲がり、背骨と首が悲鳴を上げる。
「瑞希、<カベルナリア>の味はどうだい?」
 顎を引かれることで気道が圧迫され、瑞希には答えるどころではない。ミステリオ・レオパルドは左手を顎から外すと、瑞希のバストに伸ばし、ゆっくりと揉み始める。
「んんんっ!」
 悲鳴は喉で詰まってくぐもった音になった。しかし顎に掛かっている手は右手のみ。瑞希はミステリオ・レオパルドの右手を引き剥がし、バストを揉んでいた左手も振り払って脱出する。
「へへ、結構ボリュームあるじゃないか瑞希」
 左手を前に掲げたミステリオ・レオパルドが、握ったり開いたりしてみせる。油断はしていなかったつもりだが、左手の死角から放たれた瑞希の右ミドルキックに一瞬反応が遅れた。避けるのが間に合わず、咄嗟にガードする。
「うごぉっ!」
 ガードの上からコーナーポストまで吹き飛ばされる。
「ボクの胸を触ったんだ、高くつくよ・・・」
 目に怒りの炎を宿らせ、瑞希がゆらりと間合いを詰める。
「お、おいおい、ちょっとしたお茶目じゃないか、本気で怒っちゃ・・・!」
 ミステリオ・レオパルドに最後まで言わせず、瑞希が猛襲する。そのあまりの威力と迫力に、ミステリオ・レオパルドはリング下へと脱出する。
「うへぇ、なんてラッシュだぃ。少しも気が抜けやしない」
「こらぁっ! 早く戻って来い! グッチャグチャにしてやる!」
 鼻息も荒く手招きする瑞希にやれやれと肩を竦め、リングに戻る。
「なあ瑞希、ちょっと胸触ったからってそこまで怒らなくてもいいじゃないか。処女ってわけじゃないんだろ?」
「・・・ボクは、処女だーーーっ!」
「へぇ、そうか・・・っと」
 瑞希のハイキックをギリギリでかわし、軸足にタックルしてテイクダウンを奪う。両脚で瑞希の右脚を、右手で左手を、左手で左脚を捕らえ、大きく足を開かせる。
「うきゃーっ! ちょっと、なにするんだ! やめろよバカーッ!」
 その恥ずかしいポーズに真っ赤になった瑞希が暴れる。
「なにって、処女なんだろ? 今のうちから恥ずかしさに慣れて貰おうと思った親切心じゃないか。体柔いな、足が殆ど真っ直ぐになってるぜ」
 ぐいぐいと力を込めてミステリオ・レオパルドが瑞希の両脚を広げていく。瑞希の脚が広がるたび、観客からは大きな歓声が起きる。
「放せっ! 放せってば!・・・くぉのっ、とぉっ!」
 腰を無理やり捻った瑞希が、右の拳でミステリオ・レオパルドの右手を打つ。その痛みにミステリオ・レオパルドが手を放すと、腹筋の力で上半身を起こし、両拳の鉄槌を脇腹に叩き込む。
「ぐえっ!」
 これには堪らず瑞希を解放するミステリオ・レオパルド。
「いってぇ・・・人の親切に対してその攻撃はないだろ」
「何が親切だ! もう絶対に許さないからな!」
 顔を赤らめた瑞希がミステリオ・レオパルドを睨みつける。構えを取って気合いを入れると、怒りに任せて拳と蹴りのコンビネーションを繰り出し、ガードの上からでもお構い無しの攻撃でミステリオ・レオパルドを追い込んでいく。しかしミステリオ・レオパルドのガードは固く、決定打を与えられない。瑞希の連打は少しずつスピードが落ちていき、遂には完全に止まる。
「くっ、ふっ、はっ・・・」
 最初から飛ばし過ぎたツケが、スタミナ切れとなって表れた。対するミステリオ・レオパルドは手足に多少の腫れはあるものの、今だ平気な顔をしている。ルチャドールにとってはまだまだ試合中盤といったところ、スタミナは存分に残っていた。
「なんだ瑞希、もう息が上がってるぜ。体力不足だな、もっと走り込んどけよ」
「う、うるさいっ!」
 挑発に乗って放ったミドルキックに、もう切れはなかった。ミステリオ・レオパルドは殆ど動かずにかわして見せた。
「へへっ、本当にスタミナが切れたみたいだな。じゃあ・・・屈辱技のオンパレード、食らってみるか?」
 ミステリオ・レオパルドが唇をペロリと舐め、歩を進める。
「やれるもんなら、やってみろっ!」
 それでも瑞希は強気に叫び、右ストレートを打つ。ミステリオ・レオパルドは右手を手繰り込んで背中合わせになる<ゴリースペシャル>へと繋ぎ、両手で瑞希のバストを揉む。
「あぅっ、やめろっ! このぉっ!」
 暴れる瑞希だが、ミステリオ・レオパルドが上体を揺らすためにゴリースペシャルから脱出するまではいかない。
「次はこいつだ」
 ミステリオ・レオパルドは瑞希を逆さにして左肩を自分の右膝の上に乗せ、右腕で瑞希の両腕を極め、左手で左太ももを抱えて支える。<ウニベルサル・デ・カベサ>。日本語では変形コウモリ吊りと呼ばれる固め技だった。
「や、やだっ!」
 脚を大きく開かされ、瑞希の顔が羞恥に赤らむ。両手で隠そうにも動かせず、観客の厭らしい視線に晒されてしまう。
「そんでもって、こうだ!」
 ミステリオ・レオパルドはウニベルサル・デ・カベサを解いて立ったまま瑞希の両太ももを抱え、思い切り開脚させる。逆さ吊り状態のままの瑞希は少しでも隠そうと両手で股間を覆うが、逆にそれが卑猥さを感じさせる。ミステリオ・レオパルドはそのまま後ろに倒れこみ、両脚で瑞希の両手を押さえ、股間に舌を伸ばす。
「ちょ、ちょっと、なにやってんだ!」
「うーん、さすがに衣装の上からじゃ感触がわからないな」
 舌打ちするミステリオ・レオパルド。
「それじゃ、代わりに俺がこっちの感触を確かめてやるよ」
 そう言うと、レフェリーが瑞希のバストを鷲掴みにする。
「は、放せっ! ボクに触るなっ!」
「いいじゃないか、処女のおっぱい揉むチャンスは中々ないんだ。ほほぅ、確かに結構なボリュームだ、着やせするタイプか?」
 暫くそうやって揉んでいたレフェリーだったが、衣装の下側から手を差し入れ、下着越しにバストを揉む。
「おおっ、ブラの上からだと更によくわかるな。こいつはいい感触だ、おっほう、たまらん!」
 レフェリーは鼻息を荒げ、瑞希のバストを乱暴に揉む。
「痛いっ! やめろバカッ! 変態っ!」
「くくっ、嫌われたなレフェリー。交代だ、瑞希の両手を押さえててくれ」
「ちっ、仕方ないな」
 レフェリーは舌打ちすると瑞希の両手を押さえ、ミステリオ・レオパルドは瑞希に馬乗りになる。
「さて、と。今度はじっくり触らせて貰うぜ」
 ミステリオ・レオパルドは先程のレフェリーと同じように衣装の下側から手を入れ、下着の上から瑞希のバストを撫で回す。
「触るな! バカぁっ!」
「口が悪いぜ瑞希。そんな子には、こうだ!」
 ミステリオ・レオパルドが力を込めてバストを握る。
「あぅっ!」
 その痛みに瑞希が唇を噛む。
「おっと、ちょっと強過ぎたか。これならどうだ?」
 一転してミステリオ・レオパルドが優しくバストを揉む。強弱をつけて揉むことで瑞希から快楽を引き出そうとする。
「やめてって言ってるだろ! 揉むな触るな引っ張るな!」
「・・・処女相手じゃ感じさせるのは難しいのかなぁ」
 肩を落とすミステリオ・レオパルドだが、バストを揉むのはやめようとしない。
「まあいいさ、俺が気持ちいいから続ける」
「ボクは気持ちよくない! 放せよ! H! スケベ! ムッツリ!」
「・・・口が悪い子には、もっと強いお仕置きが必要だな」
 瑞希の口撃にカチンときたミステリオ・レオパルドは、ブラをずらして乳首を露出させる。
「うきゃーーーっ! なんてことするんだ! 戻せ、隠せ!」
 顔を赤らめて抗議する瑞希だったが、乳首を摘ままれるとその口が止まる。
「可愛い乳首だな。色も綺麗だし、さすが処女だ」
 ミステリオ・レオパルドは一人頷きながら乳首を弄る。
「・・・ちょ、ちょ、ちょ・・・」
 瑞希は何か言おうとするが言葉にならない。
「もしかして乳首触られるのも初めてか? なあ、教えてくれよ。教えてくれたらやめてやってもいいぜ」
 ミステリオ・レオパルドは乳首を弄りながら瑞希の顔を覗きこむ。
「は、初めてだよ! 言ったからやめてよ、お願い!」
「やっぱりそうか」
「ちゃんと言ったでしょ! やめてよ!」
「そうだな」
 瑞希の頼みに素直に応じ、ミステリオ・レオパルドが乳首から手を放す。
「じゃあ、今度はこっちを触らせて貰うぜ!」
 そう言って右手をカンフー着の中に潜り込ませる。
「うわわわぁーーーっ!」
 瑞希の反応は強烈だった。両腕の力のみでレフェリーを持ち上げ、ミステリオ・レオパルドにぶつける。
「あぐぉっ!」
 レフェリーの下敷きになったミステリオ・レオパルドが呻く。瑞希はその隙に立ち上がり、ずらされたブラを元に戻す。
「いってってぇ・・・」
 背中を擦りながら、ミステリオ・レオパルドがレフェリーの下から這い出す。
「・・・殺す!」
 ミステリオ・レオパルドが視界に入った瑞希は反射的に駆け寄って蹴りを放つが、ミステリオ・レオパルドは転がることで危うく回避する。
「あっぶな! 寝てる奴の顔面狙うなよ」
「うるさい! お前みたいな乙女の敵は許さないからなっ!」
 威勢良く啖呵を切る瑞希だったが、体力はもう切れかかっていた。肩を上下させ、構えも低い。
「口ではそう言ってるけど、体は限界みたいだぜ?」
 ミステリオ・レオパルドはダッシュし、スライディングキックで瑞希を転ばす。ガードしようと仰向けになった瑞希に圧し掛かり、両手を押さえる。
「なあ瑞希、どこ触って欲しい?」
 ミステリオ・レオパルドは瑞希の耳元に口を寄せ、淫らに囁く。その瞬間、瑞希はミステリオ・レオパルドの耳に噛み付いた。
「うっぎゃーーーっ!」
 これには堪らず悲鳴を上げ、耳を押さえて転げまわる。
「ふっ・・・ざけるなぁっ! これ以上ボクの体を弄くり回されてたまるか!」
 怒りに震える瑞希だったが、追撃に行く余力は残っていなかった。瑞希が攻撃に来ないことで、ミステリオ・レオパルドも痛みを堪えて立ち上がる。
「も、もういい、こうなったらさっさと終わらせる!」
 瑞希のなりふり構わぬ攻撃に呆れて、というよりも恐れを感じて、ミステリオ・レオパルドはとどめに入った。姿勢を低くしてタックルに行くと見せ、ジャンプして瑞希の頭を太ももで挟み、上半身を捻りながら瑞希の両脚を掴んで海老固めに極める。
 <ウラカン・ラナ・インベルディダ>。
 リングに叩きつけられ、動きが止まった瑞希をそのままフォールする。
「ワン、ツー、・・・スリーッ!」

<カンカンカン!>

 レフェリーから勝ち名乗りを受けるミステリオ・レオパルドだったが、マスクの下のその顔は、疲労感に包まれていた。
(女って、恐い生き物だな・・・)
 噛まれた耳を押さえ、ため息をついた。


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